お役立ちコラム

親のもの忘れがひどくなってきたと感じると、「もしかして認知症?」と心配になることがありますよね。認知症にはいくつかの種類があり、それぞれに特徴的な症状や進行の仕方があります。

本記事では、認知症の概要や種類、症状を詳しく解説し、さらに接し方や予防方法についても取り上げます。具体的な知識を持つことで、早期発見や適切な対応ができるようになるでしょう。ぜひ、この記事を参考にしてみてください。

認知症の概要

認知症は、脳の働きが少しずつ低下する病気であり、日常生活や社会生活に支障をきたすことがあるため、注意が必要です。また、年齢を重ねるとともに認知症になるリスクは高まりますが、加齢によるもの忘れとは異なります。

認知症の概要や加齢との違いについて解説します。

認知症とは脳の働きが少しずつ低下する病気

認知症とは、脳の変性疾患や脳血管障害によって、記憶や思考、判断などの認知機能が徐々に低下していく病気です。認知症では、これが6カ月以上続き、日常生活に支障をきたしている状態を指します。

脳の特定の部分がダメージを受けることで、情報の処理や記憶の保持が難しくなるのが特徴です。初期段階では、もの忘れや時間の感覚が鈍くなることが多く見られますが、進行すると日常生活に重大な影響を及ぼし、家族や介護者のサポートが必要になることがあります。

認知症と加齢によるもの忘れの違い

加齢によるもの忘れと認知症によるもの忘れには明確な違いがあります。まず、加齢によるもの忘れは通常、断片的なものです。たとえば、昨日の夜ご飯に「何を食べたか」は忘れてしまうことがありますが、夜ご飯を食べたことは覚えています。この場合、本人にも忘れた自覚があります。

一方、認知症によるもの忘れは行動全体を忘れてしまうことが特徴です。つまり、「夜ご飯を食べたこと」そのものを忘れてしまい、本人に忘れた自覚がありません。このため、認知症は日常生活に大きな影響を与えることがあります。

また、進行スピードも異なります。加齢によるもの忘れはゆっくりと進行しますが、認知症は急速に進行することが多いため、早期の適切な診断が重要です。

認知症の代表的な4つの種類

認知症にはいくつかの種類があり、それぞれ異なる特徴や症状を持っています。理解を深めるためには、代表的な4つの種類について知ることが重要です。

ここでは、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症の4つについて詳しく説明します。

種類1.アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、アミロイドβやタウタンパク質といったたんぱく質が脳に沈着し、脳が萎縮することで引き起こされる認知症です。日本人では最も多い認知症だといわれています。

この病気では神経細胞の障害により、記憶障害などの症状が発症するのが特徴です。アルツハイマー型認知症が進行すると、日付・日時がわからなくなったり、家事も困難になったりと日常生活に支障をきたす恐れがあります。

残念ながら、アルツハイマー型認知症の根本的な治療法はまだ見つかっていません。しかし、進行を遅らせる薬は存在するため、早期発見が非常に重要です。親のもの忘れがひどくなってきたと感じる場合は、早めに医療機関で検査を受けることをおすすめします。

種類2.レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、脳内にレビー小体という異常なたんぱく質のかたまりが蓄積することで神経細胞が障害を受ける病気です。

この認知症の特徴的な症状として、嗅覚の低下や睡眠中に身体が激しく動く異常行動、パーキンソン症状(手足の震えや筋肉のこわばり)が挙げられます。さらに、存在しないものや人が見える幻視が見られることもあるようです。

レビー小体型認知症はアルツハイマー型認知症と同様に根本的な治療法がまだ確立されていませんが、症状の進行を遅らせる薬物療法が存在します。早期診断と適切な治療が進行を遅らせるために重要です。

種類3.脳血管性認知症

脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血が原因で脳細胞が破壊されることで発症します。

このタイプの認知症は、脳血管障害が直接関係しているため、アルツハイマー型認知症とは異なる特徴を持っています。たとえば、認知症の症状だけでなく、脳梗塞や脳出血の症状として見られる歩行障害、言語障害、嚥下障害なども伴うことがあるようです。

脳血管性認知症の予防や進行抑制には、脳梗塞や脳出血を防ぐことが重要です。高血圧や糖尿病、喫煙といったリスク要因を管理し、定期的な健康チェックを行うことで、発症リスクの低減が期待できます。また、バランスの良い食生活や適度な運動、ストレス管理も効果的です。

種類4.前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症は、前頭葉や側頭葉の神経細胞が変性や脱落することにより進行する認知症です。このタイプの認知症は、人格の変化や行動障害、言語障害など、さまざまな症状が現れます。

65歳未満の比較的若い世代で発症することが多く、初期段階ではもの忘れの症状が目立たないため、発見が遅れることが多いです。

認知症の症状

認知症の症状は、大きく分けて「中核症状」と「周辺症状」の2つに分類されます。中核症状は、記憶力の低下や判断力の欠如など、すべての認知症患者に共通して見られる症状です。

一方、周辺症状は患者によって現れるかどうかが異なり、幻覚や妄想、不安などが含まれます。これらの症状の理解は、早期発見や適切な対応に非常に重要です。それぞれの症状について詳しく見ていきましょう。

中核症状

中核症状は、記憶障害や見当識障害、判断力・理解力の障害などが該当します。具体的には、何度も同じことを言ったり聞いたりする、大切な物をなくす、今が何月か・どこにいるのか見当がつかなくなるといった症状が挙げられるでしょう。

これらの症状が進行することで、日常生活に支障をきたすことが多くなります。

周辺症状

周辺症状は、認知症の中核症状とは異なり、幻覚や妄想、徘徊、介護への抵抗、興奮などの症状を指します。これらの症状は本人の性格や周囲の環境、人間関係などさまざまな要因が作用して出現します。

これらの症状は、認知症のタイプが同じでも、まったく違う症状が見られるなど個人差が大きく、症状ごとに個別に対応することが必要です。

認知症を早期発見するめやすとなる言動

日常生活の中で、親や身近な人のもの忘れがひどくなってきた場合、認知症の初期症状かもしれません。公益社団法人「認知症の人と家族の会」の会員の経験から、早期発見のめやすとなる言動をいくつかご紹介します。

たとえば、同じことを何度も聞いたり、物の置き場所を頻繁に忘れたりする場合が該当します。他にも、1人になると怖がったり寂しがったり、自分の失敗を人のせいにしたりなど、こうした症状が見られたら、専門家に相談するようにしましょう。

出典:公益社団法人認知症の人と家族の会作成

認知症の検査方法

認知症を疑った場合、まずは正確な診断を受けることが重要です。認知症の検査は、多くの場合次のような流れで行います。
1.身体検査
2.画像検査
3.神経心理学検査

ただし、すべての検査を必ず実施するわけではなく、問診や初期症状を確認して必要とされる検査のみが行われることもあります。それでは、各検査方法について詳しく見ていきましょう。

身体検査

身体検査では、血液検査や尿検査が行われ、認知症そのものだけでなく、脳以外で異常な臓器などがないかも確認します。

たとえば、甲状腺機能低下症やビタミン障害など、認知症の症状を引き起こす可能性がある他の病気もチェックします。これにより、認知症の合併症を早期に発見し、適切な治療を行うことが可能です。

画像検査

画像検査には、形態画像検査と機能画像検査の2種類があります。

形態画像検査では、機器(CTやMRIなど)を用いて脳の物理的な形を確認します。これによって脳の萎縮状況を確認し、認知症の診断に役立てることが可能です。また、脳腫瘍、脳出血、脳梗塞などの緊急性の高い疾患がないかどうかも確認します。

一方、機能画像検査では、脳の血流状況を確認するSPECT検査や、糖代謝活性や認知症原因物質の沈着状況を確認するPET検査を行います。これにより、脳機能が正常に働いているかどうかをチェック可能です。とくに、初期のアルツハイマー型認知症を発見しやすいのが特徴です。

神経心理学検査

神経心理学検査とは、被験者に簡単な作業をしてもらったり、簡単な質問に答えてもらったりすることで、認知症かどうかを確認する検査です。この検査では、基準となる点数を満たさない場合、認知症の疑いがあると診断されます。

ただし、いずれの検査も1つの指標に過ぎないため、点数に届かないからといって必ずしも認知症とは限りません。

代表的な方法としては、以下のものがあります。

■改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)

被験者に記憶力や計算能力、言語能力などを問う9つの質問を行います。シンプルで短時間で実施できるため、初期の認知症のスクリーニングに広く用いられています。

■時計描画テスト(CDT)

被験者に時計の絵を描いてもらい、その描き方を評価するテストです。時計の数字の配置や針の位置が正確かどうかを診ることで、視空間認知能力や注意力を評価します。

■ミニメンタルステート検査(MMSE)

記憶力、計算能力、言語能力、空間認識能力などを包括的に評価する検査です。質問項目が多いため、より詳細な認知機能の評価が可能です。

これらの検査を組み合わせて行うことで、認知症の可能性をより正確に判断できるようになります。検査結果が認知症の疑いを示した場合は、さらに詳しい診察や治療が必要です。

認知症の治療方法

認知症と診断された場合、適切な治療が重要です。とくにアルツハイマー型認知症などの「変性性認知症」は根本的な治療法が確立されていないため、治療は進行を遅らせることを目的とします。

一方で、血管性認知症や正常圧水頭症など、予防や治療が可能な認知症もあります。

<根本治療が困難な認知症>

  • アルツハイマー型認知症
  • レビー小体型認知症
  • 前頭側頭型認知症

<予防や治療が可能な認知症>

  • 血管性認知症
  • 正常圧水頭症
  • 慢性硬膜下血腫
  • 甲状腺機能低下症

ここでは、変性性認知症の治療方法について解説します。

薬物療法

薬物療法は、薬を服用することで、症状が発現するのを抑えたり、症状の進行を遅らせたりする治療法です。認知症の症状を管理するために重要な役割を果たすものといえるでしょう。

具体的には、中核症状に対しては抗認知症薬が用いられます。一方、周辺症状(BPSD)に対しては抗精神病薬、睡眠薬、抗うつ薬などが処方されることもあります。

ただし、薬物療法には副作用のリスクも伴うため注意が必要です。たとえば、鎮静効果によって転倒や骨折のリスクが増加する恐れがあります。

非薬物療法

非薬物療法とは、薬を使用せずに認知症の進行ペースを遅らせたり、認知症の症状を緩和したりする治療法のことです。代表的なものとして、回想法や認知リハビリテーションがあります。

回想法は、過去の写真や思い出の品を見ながら、他の人と会話することによって昔の記憶を呼び起こし、認知能力の向上を目指す治療法です。これにより、記憶を他人と共有することで、精神的な安定も期待できます。

認知リハビリテーションは、パズルやゲームなどを用いて認知機能の維持や回復を目指す治療法です。軽い運動や体操、音楽療法、芸術療法、動物セラピーなどを組み合わせるケースもあります。

認知症患者への対応方法

認知症患者と接する際には、相手の気持ちや状況に配慮した対応が求められます。認知症は記憶や判断力に影響を与えるため、適切な対応方法を知っておくことが重要です。

ここでは、認知症患者への具体的な対応方法をご紹介します。

様子を見る

認知症の初期症状は、加齢によるもの忘れと区別がつきにくいことがあります。

普段の生活での行動をさりげなくチェックし、理解力や判断力の低下が見られた場合には、焦らずにその変化を観察しましょう。もし、加齢によるもの忘れではなさそうだと感じた場合は、医療機関や地域包括支援センターに相談することを検討してください。

専門家の意見を聞くことで、適切な対応策の選択肢が増え、その人にあった選択をしていけます。

声かけ時に刺激を与えない

認知症の初期症状が見られる場合、本人も認知症かもしれないという不安を抱えていることが多いです。その状況において、複数人で声をかけると相手がパニックに陥ってしまう恐れがあります。

そのため、もの忘れなどの兆候が見られるようになったら、家族の中の1人が代表となって声をかけるようにしましょう。声かけの際には、むやみに刺激を与えないことが重要です。

話しかける際には相手の顔の位置に顔を持って行き、目線を合わせ、やさしい口調で聞き取りやすいようにはっきり話すことを心掛けましょう。これにより、相手の混乱を防ぎ、安心感を与えられます。

明るい気持ちになれるよう心掛ける

認知症かもしれないと自覚することは、本人にとって非常に大きな衝撃をもたらします。そのため、できるだけ普段の生活では自然にふるまうようにし、明るい気持ちになってもらえるよう配慮することが大切です。

たとえば、最近あった明るい出来事を話題にする、昔の写真を見ながら思い出話について話すといった方法があります。また、自分の中にある不安を少しでも吐き出すことによって楽な気持ちになれる場合もあるため、相手の言葉に耳を傾けて、気持ちを受け止められるように接することも大切です。

NG行動をとらない

認知症の方に対して、叱る、命令する、強制するなどの行動は避けるべきです。認知症になると、記憶力や理解力、判断力の低下に伴い、どうしても行動が遅れがちになります。

それを見ると、ついイライラしてしまいがちですが、責めたり叱ったりすると、相手が心を閉ざしてしまいかねません。また、認知症の症状が進行する恐れもあるため、NG行動をとらないように心掛けましょう。

認知症予防や進行抑制に効果的な方法

認知症は早期の予防と進行抑制が大切です。効果的な方法を知っておくことで、認知症のリスクを減らし、進行を遅らせることにつながります。

ここでは、認知症予防や進行抑制に効果的な方法をご紹介します。

バランスの良い食生活を心掛ける

生活習慣病による体内の血流不足は、認知症の発症や進行を引き起こすといわれています。そのため、生活習慣病にかからないよう、日頃からバランスの良い食生活を心掛けることが大切です。

まず、塩分や糖分を摂りすぎないように注意しましょう。これらの過剰摂取は高血圧や糖尿病などの生活習慣病を引き起こし、血流を悪化させる原因となります。

また、抗酸化作用が期待できる緑黄色野菜を積極的に摂ることが重要です。これらの野菜には、ビタミンやミネラルが豊富に含まれており、体内の酸化ストレスを軽減する効果があります。

さらに、動脈硬化を予防するDHAや、血液をサラサラにするEPAを含む魚類を積極的に摂りましょう。とくにサンマなどの青魚にはこれらの成分が豊富に含まれています。

これらにより、生活習慣病の予防や血流の改善が期待でき、認知症の発症や進行を抑える効果があるとされています。

定期的に運動をする

定期的な運動は、認知症の予防や進行抑制に効果的です。体を動かすことで脳の働きが活性化され、認知能力の低下を防ぐ効果が期待できます。

具体的には、ウォーキングなどの適度な運動を週に2~3回以上、30分以上継続して行うことが推奨されています。無理をせず、楽しみながら続けられる運動を選ぶことが大切です。無理をするとケガの原因になるだけでなく、習慣化が難しくなるため、注意が必要です。

過度な飲酒や喫煙をやめる

過度な飲酒や喫煙は、生活習慣病の原因になるだけでなく、認知症のリスクを高めることにもつながるため、注意が必要です。とくに、アルコールの過剰摂取はアルコール性認知症の発症リスクを高める要因となります。

また、喫煙は脳への血流を悪化させ、脳細胞にダメージを与えることが知られています。そのため、認知症予防の観点からも、飲酒や喫煙は控えることが重要です。

飲酒や喫煙について心配な点がある場合は、医師に相談することをおすすめします。医師のアドバイスを受けながら、健康的な生活習慣を心掛けることが大切です。

社会的なつながりを持っておく

認知症の予防として重要なことは、おしゃべりをして、人との交流をすることです。そのため、社会的なつながりを持つことは認知症予防に効果的な習慣といえます。

他人と会話を楽しんだり、一緒に運動をしたりすることは、生きがいを感じられるだけでなく、認知能力の低下を予防し、認知症の進行を遅らせる効果も期待できます。

同じ趣味を持つ仲間と交流することや、夫婦で共同作業を行うことも良い影響を与えるものです。さらに、習い事の発表会なども脳に良い刺激を与えるため、積極的に参加すると良いでしょう。

認知トレーニングを取り入れる

認知トレーニングは、脳の認知機能を鍛えるための活動であるため、認知症予防や進行を抑えるのに有効です。具体的には、今回ご紹介したような脳トレやパズル、計算ドリルなどが挙げられます。

他にも、囲碁や将棋、料理、楽器演奏、テレビゲームなど、自分が楽しめる活動を趣味の範囲で無理なく続けることも重要です。これらの活動は、脳だけでなく心の健康にも良い影響を与えるため、楽しいと感じることを優先しましょう。

認知症介護には介護施設の利用も検討しよう

認知症にはさまざまな種類があり、それぞれの症状によっても異なる対応を必要とします。また、認知症の介護は家族にとって大変な負担となることが多いものです。認知症の症状や進行度に応じた適切な介護が必要になるため、家庭内だけでの対応が難しい場合もあるでしょう。

そのため、介護施設の利用を検討することも一つの選択肢として考えてみてはいかがでしょうか。専門的なケアが受けられる介護施設は、家族の負担軽減にもつながります。認知症患者とその家族がより良い生活を送るために、必要なサポートを受けることが大切です。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝

2011年 4月 入社 事業推進部 配属 
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長
2023年 10月 常務取締役 兼 事業本部長 兼 事業推進部 部長