お役立ちコラム

介護や出産・育児による不本意な退職を防ぎ、男女ともに家庭と仕事を両立できるよう、育児・介護休業法が改正されました。過去の改正の経緯も踏まえて、すでに施行された改正法のポイントや今後順次施行される改正法のポイントについてわかりやすく解説します。

育児・介護休業法改正の背景とは

育児・介護休業法は時代の変化に応じて、過去に何度かの改正を経てきています。そして2022年に入ってからもすでに4月に改正を実施し、この先には10月、年が明けて2023年の4月にも改正が予定されています。

今回の一連の改正の背景にあるものは以下のとおりです。

  • 背景1.家庭の事情による女性の退職への配慮
     1)出産・育児による一定割合の退職がある事実
     2)仕事と育児等の両立の困難さ
  • 背景2.男性育児休業の促進による少子化対策

個別に見ていきましょう。

背景1.家庭の事情による女性の退職への配慮

厚生労働省の雇用環境・均等局職業生活両立課が2021年に公表した「育児・介護休業法の改正について」において、家庭の事情による女性の退職への配慮に言及されています。

女性の仕事と家庭での出産・育児あるいは介護などの両立が容易ではない現状について触れた上で、何が両立のネックになっているのかが課題として挙げられている内容です。

その課題とは、具体的には「出産・育児による一定割合の退職がある事実」と「仕事と育児等の両立の困難さ」です。それぞれを詳しく見ていきましょう。

参考:厚生労働省|育児・介護休業法の改正について

出産・育児による一定割合の退職がある事実

出産・育児と仕事を両立できずに、一定の割合で退職する女性が存在する事実が課題視されています。厚生労働省の資料によると、出産前の働く女性を100とした場合、2010〜2014年で出産後も継続して働いているのは約5割とされています。

2014年までの数字なので、その後割合に変化がある可能性はありますが、2020年の政府目標には第1子出産前後の就業継続率として55%が掲げられていました。

つまり、今なお多くの女性が家庭の事情により退職に至っている状況が窺えます。

参考:厚生労働省|育児・介護休業法の改正について

仕事と育児等の両立の困難さ

厚生労働省の資料によると、退職した具体的な理由については仕事と育児等の両立の困難さを挙げる回答が最も多く、41.5%となっています。

一方で、パートナーである男性の育児や家事に携わる時間が長いほど、女性の就業継続率が高いとしています。同様に第2子以降の出生割合にもプラスに反映していると言及されています。

これにより、女性が仕事と育児などを両立させるためには男性が育児及び家事に関与するという要素が欠かせないことが明らかです。

1996年時点ではわずか0.12%であった男性の育児休業取得率は、その後徐々に上昇しています。とりわけ2016年以降に大幅に伸び続けており、2020年で1996年の10倍の12.65%となっています。

とはいえ女性の、2007年以降に80%超が続く取得率には遠く及ばない水準といえるでしょう。また男性の場合育児休業取得日数も5日未満が最多であるのに対し、女性は90%近くが6ヶ月以上です。

こうした背景から、男性の育児休業取得は女性の就業継続を一般化するための重要課題といえるでしょう。

参考:厚生労働省|育児・介護休業法の改正について

背景2.男性育休の促進による少子化対策

2022年の育児・介護休業法改正の目的は、男性育児休業の促進で出生率をアップするという少子化対策を推し進める意味もあります。

2020年5月には「少子化社会対策大綱」が閣議決定され、男性の育児参画を促進するための育児休業取得などの取組みを包括的に推進する方向が固められています。また、その後にも労働政策審議会で「男性の育児休業取得促進」の建議が展開されていました。

つまり、直近の2022年の改正で男性の育児休業取得を奨励・促進することによって、少子化対策を強く推し進めることねらいがあるのは間違いないでしょう。

参考:厚生労働省|育児・介護休業法について

育児・介護休業法の過去における改正の経緯

育児・介護休業法が誕生した1990年代から何度も改正を重ね、現在につながっています。1990年代、2000年代、2010年代と時代背景に応じた変化を加えてきました。

ここではそれら3つの年代ごとに実施された改正の経緯を、年代ごとに詳しく見ていきましょう。

1990年代の改正

1992年4月、常時30人以上の従業員が稼働する事業所を対象に「育児休業法」が施行されました。

1995年4月1日に現在の「育児・介護休業法」となり、介護休業の制度も法制化され、従業員数に関係なく、すべての事業所が適用対象となりました。

介護休業制度が義務化されたのは1999年4月です。また、未就学児童を持つ従業員から申し出があれば、午後10時から午前5時までは労働を命じてはいけません。

参考:日本総研|【OPINION】育児休業制度を考える

2000年代の改正

2002年4月1日の改正では、未就学児童をもつ従業員から申し出があれば、看護休暇を年に5日与える制度の創設を義務化しました。

また、時間外労働の制限が設けられます。未就学児童を持つ従業員から請求があれば、原則として月間で24時間、年間で150時間を超える時間外労働をさせてはならない制度です。

また、子が3歳未満の場合、フレックスタイムや時短勤務、終業時刻の変更などからどれかひとつの措置を企業が選択して講ずることが決められています。

2005年4月1日の改正では子の看護休暇が義務化されました。また、休業対象者が有期雇用者なども含めるように拡大されます。

そして育児休業期間は、原則として子の1歳の誕生日にまでとされていたのが、一定の条件を満たす場合に1歳6ヶ月に時点まで延長できるようになりました。

参考:一般社団法人 東京中小企業家同友会|育児・介護休業法の改正(2002年11月)

2010年代の改正

2010年代には多くの改正が行われました。背景としてはおよそ6割の女性が第一子出産前後で退職していた状況や、男性の育児休業取得率が一向に伸びが悪く1.56%の低水準である状況があり、それらを改善すべく、多くの項目で改正が行われました。

【2010年6月30日改正】

・パートナーが専業主婦(夫)である場合の除外規定を廃止

パートナーが専業主婦(夫)の場合に育児休業取得の対象外とする規定の撤廃

・短時間勤務措置の内容変更

短時間勤務措置の内容が、「所定労働時間を6時間とする」措置の内容に変更

・「パパ・ママ育休プラス」制度の創設

育児休業を父母ともに取得する場合に、子が1歳と2ヶ月に達するまでの間に、最長で1年間の休業を取得することができる制度

・所定外労働の免除制度の創設

3歳までの子どもをもつ従業員から請求があった場合には、所定外労働を免除することを義務づけ

・介護休業制度の創設

介護と仕事の両立支援のために、介護対象者1人で年5日、2人以上の場合には年10日の介護休暇を取得できる制度

・看護休暇の付与日数の変更

未就学児童の看護をするための年5日の休暇と別に、2人以上の子を持つ場合に年10日の休暇を付与

【2017年1月1日改正】

・介護休業の分割取得

介護を必要とする家族1人につき通算93日の介護休業を最大で3回に分けることが可能

・介護のための所定外労働の制限

家族に介護な必要な従業員に労働時間を短縮する措置を講じることを義務づけ

・介護のための所定労働時間の短縮措置

介護を必要とする家族1人につき介護が不要になるまで残業が免除される制度

・最長2歳まで育児休業の再延長が可能

育児休業を2歳まで延長することが可能

・子の看護休暇・介護休業の半日単位の取得

看護・介護休暇を1日ではなく半日の単位でも利用可能

・マタハラ・パタハラなどの防止措置義務

妊娠・出産・育児および介護休業取得などを理由とする就業環境を害する行為の防止と必要な措置を講じることを義務づけ

・育児休業の子の対象範囲を見直し

養子縁組里親に委託されている子や特別養子縁組の監護期間中の子などについても育児休業の対象とする見直し

・育児目的休業の新設

未就学の子を持つ従業員が、利用できる制度を設ける努力義務

・育児休業制度の個別周知

従業員が育児休業制度の対象となることを知った際に制度に対して個別に周知する努力義務

・有期契約従業員の育児休業・介護休業の取得要件の緩和

有期雇用従業員の育児休業取得要件を大幅に緩和

【令和4年4月施行済】改正のポイント

2022年(令和4年)4月に施行された改正内容の主なポイントは、以下のとおりです。

  • ポイント1.企業側の環境整備および周知義務
     1)休業取得しやすい環境の整備
     2)取得希望者への個別の周知
  • ポイント2.育児・介護休業の要件緩和

それぞれのポイントを見ていきましょう。

ポイント1.企業側の環境整備および周知義務

改正により企業の雇用環境の整備や育児休業制度の従業員に対する周知が義務化されました。育児休業を取得したい従業員の、意向を確認することも義務となります。

これによって従業員側から育児休業取得を申し出にくい環境をなくし、企業側から積極的に制度の利用を呼びかける流れを作り出す動きを広げるねらいです。

具体的に見ていきましょう。

休業取得しやすい環境の整備

従業員が育児休業取得の申し出や、その手続きを円滑にできるよう、企業側に雇用環境の整備が義務づけられました。

企業としては、具体的に次のいずれかの措置から選んで、講じなければならないと定められています。

  • 育児休業に関する研修の実施
  • 育児休業に関する相談体制の整備
  • 厚生労働省令で定める雇用環境の整備に関する措置

「研修の実施」を講じるのであれば、社内にて定期的に育児休業制度について研修やセミナーを開催するなどが想定できます。研修の講師陣は外部の専門家に依頼するもよし、社内人事担当者が制度を説明するもよしでしょう。

「相談体制の整備」を講じるのであれば、育児休業相談窓口を設けて全社に周知・啓蒙しておくなどが想定できます。

そのほかの雇用環境の整備について、厚生労働省の省令やガイドラインを参考に進めるのがよいでしょう。

参考:厚生労働省|育児・介護休業法について

取得希望者への個別の周知

出産予定の従業員本人、またはパートナーの出産予定を企業に申し出た男性従業員に、企業は利用できる制度について周知する義務が定められています。

具体的には企業の労務担当者などが面談を実施して行うか、書面に利用できる制度内容を記載して交付するなどのいくつかの選択肢が考えられます。

参考:厚生労働省|育児・介護休業法について

ポイント2.育児・介護休業の要件緩和

改正前は、有期雇用従業員が育児休業を取得するための要件に、継続雇用期間が1年以上であることとされていましたが、改正により撤廃されました。

介護休業・看護休暇を取得できる対象範囲も拡大され、改正前は取得できなかった所定労働時間が1日4時間以下の従業員も含め、すべての従業員が子の看護休暇・介護休業を取得することが可能になりました。

【令和4年10月施行予定】改正のポイント

2022年(令和4年)10月に施行予定となっている改正内容の、主なポイントは以下のとおりです。

  • ポイント1.産後パパ育休の開始
  • ポイント2.育児休業の分割取得

これにより、男性の育児休業取得が大幅に推進されることになります。

この2つの改正ポイントと、具体的な取得手続きの流れについて触れておきましょう。

ポイント1.産後パパ育休の開始

「産後パパ育休(出生時育児休業)」が新たに創設されます。通常の育児休業とは別の制度になり、男性版産休とも呼ばれます。

産後パパ育休は、原則として休業の2週間前までに申し出ることで、4週間までの休業を出生後の8週間以内に取得できます。

今回の改正によって、これまでは女性に偏りがちであった家事・育児を見直し、男性の参加を強く推進することが期待できます。それに伴い、女性の出産意欲向上、就業機会の拡大、男女の雇用格差の改善なども進むと考えてよいでしょう。

原稿の育児休業制度と令和4年10月からの改正版育児休業および、新たな産後パパ育休の違いと関係性は以下の表のとおりです。

育児休業制度
(現行)
育児休業制度
(改正版)
産後パパ育休
(育休と別に取得可能)
施行日 現行 2022年10月1日 2022年4年10月1日
対象期間
取得可能日数
原則として子が1歳(最長2歳)まで 原則子が1歳(最長2歳)まで 子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能
申出期限 原則1ヶ月前まで 原則1ヶ月前まで 原則休業の2週間前まで
分割取得 原則分割不可 分割して2回取得可能(取得の際にそれぞれ申し出ることが必要) 分割して2回取得可能(初めにまとめて申し出ることが必要)
休業中の就業 原則就業不可 原則就業不可 労使協定を締結している場合に限り労働者が合意した範囲で休業中に就業することが可能
1歳以降の延長 育休開始日は1歳および1歳6ヶ月の時点に限定 育休開始日を柔軟化
1歳以降の再取得 再取得不可 特別な事情においてのみ可能(※2)

※1:今回の改正で雇用環境の整備などについて、労使協定において企業が義務内容を上回るような施策の実施を決めている場合は、1ヶ月前までとすることが可能です。

※2:1歳以降での休業が、ほかの子のための休業の開始によって育児休業が終了した場合で、産休等の対象だった子等が死亡等した場合は、再度育児休業が取得可能です。

参考:厚生労働省|育児・介護休業法 改正ポイントのご案内

ポイント2.育休の分割取得

現行の育児休業ではタイミングを分けて休業することはできなかったのですが、2022年10月からは2回に分けて取得することが可能です。1歳以降の育児休業の延長では、育児休業開始日を柔軟に設定できるようになります。

この改正により、分けることによって一回の休業期間を短くしたり、パートナーと取得時期をずらして交代で休業したりなど、大幅に柔軟な働き方および休みの取り方を実現できるようになりました。

参考:厚生労働省|育児・介護休業法 改正ポイントのご案内

具体的な取得手続きの流れ

具体的な取得手続きの流れは以下の4段階になります。

<第1段階>対象従業員が就業してもよい場合は、雇用企業側にその条件を申し出る
<第2段階>企業側は対象従業員が申し出た条件の範疇で候補日や時間を提示する
<第3段階>対象従業員が同意する
<第4段階>企業側が通知する

ただし、就業可能日や時間には、休業期間における所定労働日や所定労働時間の50%が上限です。また休業開始日や終了予定日に就業する際には所定労働時間数未満と決められています。

たとえば1週間あたりの所定労働日5日で1日あたりの所定労働時間8時間の場合、休業期間が2週間であれば所定労働日は10日、所定労働時間80時間なので、就業日数の上限は5日、就業時間の上限は40時間、休業開始日や終了予定日の就業は8時間未満となります。

参考:厚生労働省|育児・介護休業法 改正ポイントのご案内

【令和5年4月施行予定】改正のポイント

2023年(令和5年)4月に施行予定となっている改正内容のポイントは育児休業の取得状況公表の義務化です。

従業員数が1,000人を超える企業を対象には、従業員の育児休業等の取得の状況を毎年1回公表することが義務づけされます。

育休取得状況の公表義務化

公表の義務化の対象となる内容は、男性の育児休業等の取得率あるいは育児休業等と育児目的休業の取得率です。取得率の算定対象となる期間は、公表を実行する日を含む会計年度(事業年度)のひとつ前の会計年度です。

一般の人が閲覧できるような方法(たとえばインターネットのコーポレートサイトで発表するなど)で公表しなければなりません。自社サイトのほか、「両立支援のひろば」(厚生労働省のWebサイト)で公表することも可能です。

参考:厚生労働省|両立支援のひろば

育休・介護休ハラスメント禁止を知っておこう

育児休業などを申し出たことや取得したことを理由に、企業側がその従業員を降格や減給、解雇、退職強要、あるいは正規雇用から非正規雇用に契約変更するなどにより従業員に不利益を与えることを厳しく禁じています。

その改正により、本人あるいはパートナーの妊娠・出産の申し出や各種育休の申し出および取得、産後パパ育休期間中の就業の申し出あるいは不同意などを理由として従業員に不利益を与えることは固く禁止されることとなりました。

加えて企業側には、対象従業員の上司および同僚などからのハラスメントを未然に防止する措置を講じることも併せて義務づけられています。

参考:厚生労働省|育児・介護休業法 改正ポイントのご案内

ハラスメントの事例

事例としては、以下のようなものが想定されます。

  • 産後パパ育休の取得を希望する旨を上司に相談したところ「男が育児休業するなど考えられないことだ」と罵倒され、取得を断念させられた。
  • 育児休業の取得を考えていることを同じ部署の先輩に伝えたら皆の前で「うちは暇じゃないの。私ならそんなの取得しない。周りに迷惑かけて平気なの?」と叱られ申請し難い雰囲気になり、辛い思いをした。
  • 育児休業を取り、終了後に職場復帰したところ、上司から具体的な理由がわからない降格を告げられて納得できない。

参考:厚生労働省|育児・介護休業法 改正ポイントのご案内

育児・介護休業法改正のポイントを知って有効活用しよう

これまでも徐々に改善されてきた育児・介護休業法は、働き方改革の大きな流れの中で、2022年の改正によってさらに従業員を尊重したカタチに発展しそうです。

これまでは取得したくてもなかなか言い出せなくて、育児休業を利用できないケースも多かったようですが、これからは変わっていくことが期待できます。もちろん不理解な事業主や上司がすぐにゼロになるわけではないですが、少なくとも不当な扱いが通りにくい法整備が進んでいます。

育児・介護休業の取得を検討しているみなさんは、ここで紹介した情報も参考にしていただき、最大限に活用できるようによく調べて臨んでください。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝

2011年 4月 入社 事業推進部 配属 
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長
2023年 10月 常務取締役 兼 事業本部長 兼 事業推進部 部長