お役立ちコラム

今や社会問題であるワンオペは、介護の世界でも発生しています。ワンオペ介護は在宅だけでなく施設でも問題視され、一日も早い改善が求められている状況です。

この記事では、ワンオペ介護の概要と施設における現状や問題点、介護者の待遇の改善の糸口について解説します。

ワンオペ介護とは?

ワンオペは「ワンオペレーション」の略で、ワン(1人)とオペレーション(手順・作業)を合わせた言葉です。たとえば飲食店のワンオペでは、接客から調理・食器洗い・レジ打ちまですべての作業をこなします。ワンオペをこなせずに無理をすると、体調や精神にとって大きな負担になりかねません。

ここでは、ワンオペ介護の概要を解説します。

介護にまつわる作業をすべて1人で担うこと

介護でのワンオペは、介護にまつわる作業のすべてをたった1人だけで担うことをいいます。要介護になる原因は、「ケガを負う」「病気を患う」「フレイル(高齢で体が思うように動かない)」「認知症で通常の暮らしができない」などさまざまです。

在宅介護でワンオペの場合、介護者は一対一で昼夜の区別なく要介護者に向き合わなくてはなりません。朝昼晩の食事の介助をし、トイレ(排泄)の対応は不定期です。状況によっては入浴を介助し、散歩に連れ添います。

昼間はデイサービスや訪問介護を利用しても、夜間に介護するのは介護者1人です。認知症を患う方は、夜中に徘徊することもあります。またトイレが間に合わなかったら、寝具の交換も必要です。

これらの作業だけを考えても、介護をワンオペで担うのは大変です。時間を決めるなどし、複数の介護者で分担するのが理想的でしょう。

ワンオペ介護が増えている社会的背景

少子高齢化が進み、日本は高齢者人口の割合が高い国となっています。簡単に言うと、介護される側の人口が多く、その生活を支える15~64歳の現役世代の人口が少ない状態です。

現役世代の少なさは、介護する側の少なさでもあります。1人っ子や独身の場合、高齢となった両親の介護を1人で担うことも多いでしょう。きょうだいがいてもさまざまな事情により介護に携われないことも多く、1人に負担が集中してしまう、つまりワンオペ介護になってしまいます。

介護施設におけるワンオペ介護の現状

ワンオペ介護は、介護施設でも問題とされています。「介護施設では多くの介護者がいるはずなのになぜ?」と思われるかもしれません。しかし施設にも課題があり、改善が求められている状況です。

ここでは、介護施設でのワンオペ介護の現状について解説します。

ワンオペ介護になりやすいのは夜勤

介護施設でのワンオペ介護が問題視されている背景には、介護人材の不足という問題があります。とくに問題とされるのは、夜勤帯です。夜勤は深夜時間(22時〜翌5時)の勤務を指しますが、実際には夕方から翌朝までの勤務であることも多いです。

厚生労働省は、夜勤の勤務条件の基準を「入居者25名以下の場合は1名以上」としています。逆に言えば、「1人で25名の入居者を受け持つ」ということです。一方日勤では、入居者3名あたり介護士または看護師が1人が配置されます。夜勤はワンオペ介護になりやすく、すでにワンオペ介護の状況が多いといえるかもしれません。

参考:労働基準法 | e-Gov法令検索

参考:厚生労働大臣が定める夜勤を行う職員の勤務条件に関する基準

平均的な夜勤の業務と介護者の心境

入居者の状態や状況によって違いはありますが、夜勤者の業務は以下のような順序で行われます。

  1. 日勤からの引継ぎ
  2. 夕食での食事介助
  3. 就寝に備えて口腔ケアや着替えを介助
  4. 就寝後、1~2時間おきに全入居者を巡回して安否を確認
  5. 入居者ごとに決まった時間に排泄介助
  6. 不定期にナースコール対応
  7. 時間を見計らって介護記録の作成や施設の清掃
  8. 朝の起床介助と排泄や着替えの介助、個別のバイタル測定
  9. 朝食準備
  10. 朝食での食事介助

グループホームであれば、上記に洗濯や朝食の調理、食事の後片付けといった家事も加わります。ナースコールがなければ1~2時間程度の休憩をとることも可能ですが、取れないことが多いのが現状です。夜勤が続き、体調を崩すこともあります。

夜勤で不安視される原因の1つが、入居者の状態の急変への対応です。急変への対応方法や手順は、入居者1人ひとり異なります。万が一複数の急変対応が必要となれば、プレッシャーはさらに大きくなるでしょう。夜勤者は、勤務のたびに大きなプレッシャーにさらされています。

責任の重さは在宅も同様

在宅でワンオペ介護を担う方も、夜勤者同様にプレッシャーを感じているかもしれません。介護しなくてはならない状況、やらなくてはならない作業の量、休みたくても休めない介護の現実。同じワンオペ介護として、責任の重さは同じです。

在宅介護では、25人ほどの介護を受け持つわけではありません。重要なのは、施設とは異なり介護から解放されることがない点です。休日はもちろん休憩さえ取れなければ、心身共に疲れ果てて体調を崩しても仕方ありません。

ワンオペ介護は、介護施設でも大きな課題です。要介護者のためにも、介護者が無理なく介護を続けられるような配慮や対応が求められています。

ワンオペ介護の問題点

ワンオペ介護が持つ問題点を、しっかり把握しておく必要があります。介護者が介護できなくなる可能性があり、要介護者の不利益につながるおそれがあるためです。

ここでは、ワンオペ介護の問題点について解説します。

介護者の心身の疲弊

1つめの問題は、介護者の心身の疲弊です。在宅介護では、24時間の対応が必要です。ワンオペ介護であれば1人で24時間対応し、休む時間は原則としてありません。

夜間の徘徊や排泄介助、日中の食事介助や入浴介助などの作業による疲労や睡眠不足が、体の不調につながるかもしれません。終わりの見えない介護の現実がそれに拍車をかけ、うつ状態(介護うつ)に陥るおそれがあります。

介護うつによる疲労感・倦怠感・睡眠障害・食欲不振などの症状は、さらなる体調不良の原因です。加えて不安や焦燥感に襲われて思考障害に陥り、家事が難しくなるだけでなく自殺願望を抱くこともあります。

限界を見極めることが困難

2つめの問題は、介護者の疲弊を見極めることが難しい点です。見た目にわかりやすければタイミングよく手を打つこともできますが、見極められなければ状況は見過ごされ、悪化し続けます。

ワンオペ介護で心身ともに疲弊しやすい人の特徴は、以下のとおりです。

  • 何事にもまじめに取り組み、几帳面で完璧主義
  • 自分に厳しく人に頼らない
  • 人の頼みを断れない
  • 人にやさしく気遣いができる

毎日の介護で少しずつ変化していく自分を自身で見極めるのは、困難でしょう。

ワンオペ介護の改善の糸口

介護の現状を考えれば、ワンオペ介護はやむを得ない手法かもしれません。しかしそのために介護者の心身が疲弊し、介護できなくなっていては介護そのものが立ち行かなくなってしまいます。ワンオペ介護を放置するのではなく、継続できるような改善が必要です。

ここではワンオペ介護の改善の糸口を解説します。

悩みや現状を打ち明けられる人を作る

介護者の心身の疲弊は、体調にも現れます。「よく眠れなくなった」「食欲が減った」「気分が落ち込んだままである」といった変化を感じたのであれば、無理をしている証拠かもしれません。介護に直接かかわっているケアマネジャーや訪問ヘルパーなどに悩みや現状を打ち明け、気分転換に努めましょう。

自分の置かれた状況と似た経験を持つ人と、おしゃべりするのも有効です。今の状況を改善するための制度やサービスを教えてもらえることもあるでしょう。また悩みや不安を誰かに共感してもらえれば、気持ちが楽になります。新たな考えに気づき、介護を前向きにとらえるきっかけになる可能性もあります。

現在の介護サービスを見直す

現状を改善したいと感じたら、まずは現在利用している介護サービスを見直してみるのもおすすめです。最初は介護サービスを含めた計画である、ケアプランを見直しましょう。ケアプランは担当のケアマネジャーが、さまざまな情報をもとに作成します。ケアマネジャーに現状を打ち明け、改善方法を一緒に検討しましょう。

介護サービスの情報は、自治体や地域の社会福祉協議会のホームページや定期刊行物でも探せます。

介護施設の様子を知る

現在、在宅介護であっても、状況によっては介護施設の方がより適切な介護を受けられる可能性もあります。そのためには、介護施設で受けられる介護サービスや施設の状況を知ることが必要です。

介護される高齢者の状態は、時間とともに変化します。以前は在宅介護が適していたかもしれませんが、持病が悪化したり、身体機能が低下したりの変化に対応していることが介護には 重要です。

介護される側にとって適切な介護とは何か、この機会に介護施設の様子からじっくり考えてみましょう。

あなぶきの介護には、住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・介護付き有料老人ホームと各種介護施設があります。見学予約も受け付けておりますので、お気軽にご相談下さい。

あなぶきの介護

ワンオペ介護は客観的視点を維持することが大切

人手不足が深刻化する今の介護の現状、ワンオペ介護はやむを得ない手法なのかもしれません。しかし介護の作業をたった1人で担うことは、身体の疲れだけでなく心の疲れも伴います。最悪の場合、介護うつを患い、介護できなくなってしまうかもしれません。

ワンオペの介護者は、自身の変化に早くに気づけるよう常に客観的視点を維持する必要があります。これは介護者だけでなく、介護される側にとっても重要です。大切な方の介護を続けていくためにも、自身をしっかり見つめ、適切に管理することが必要でしょう。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝

2011年 4月 入社 事業推進部 配属 
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長
2023年 10月 常務取締役 兼 事業本部長 兼 事業推進部 部長