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お役立ちコラム
2023年3月1日
高齢者の低体温症│症状や対応時のポイントを解説
夏になると熱中症に注意するよう促されますが、実は同じくらい多いのが低体温症です。低体温症は、身体機能の衰えや持病などによって運動量が少なくなりがちな高齢者にとくに多いとされています。
さまざまな理由から低体温症が進行し、気づいた時には重度となっていることも少なくありません。ここでは、介護の必要な高齢者に対する低体温症の症状と対処法、予防のポイントを解説します。
目次
低体温症とは?主な3つの症状
まずは、低体温症とはどのような状態を指すのかを知ることが大切です。低体温症は、自分自身でも気づかないうちに進行する場合もあります。とくに介護の現場では、介護者が異変を察知することが必要です。
低体温症となったときに現れる、代表的な症状を3つ紹介します。
- 症状1.体温の急激な低下
- 症状2.震えや指先の色の変化
- 症状3.意識が低下する
以下より、詳しく見ていきましょう。
症状1.体温の急激な低下
低体温症は、体の深部体温が35度以下に低下した状態です。
人間の体温は、2つに分けることができます。1つは脇の下などで測定する皮膚体温であり、もう1つが脳や内臓など体の表面から遠い体の中心に近い部分を測定する深部体温です。
正常なときの平均の深部体温は、肝臓だと38.5度、直腸であれば38度とされています。一般的には、専用の体温計で測った直腸の体温が深部体温です。皮膚体温より高めである深部体温が、皮膚体温より低い35度以下と測定されると、低体温症と診断されます。
低体温症は通常、深部体温が32度から35度を軽症、28度から32度を中等症、20度から28度を重症に分類されます。脳や心臓のような臓器の体温が低いことは、命に関わることです。中等症以上の死亡率は約40%といわれることからも、このリスクの危険度がわかるでしょう。
皮膚体温は、深部体温の目安にはなりません。皮膚体温は一時的に温めただけでも大きく変動しますが、深部体温にはまったく影響しないためです。皮膚体温の変化をもとに、低体温症の状態変化を把握することはできません。
症状2.震えや指先の色の変化
低体温症になると、体が激しく震え、手足の指先の色が紫色や白色になることがあります。
体の震えは、体温の低下に反応して筋肉を小刻みに動かすことで熱を発生させ、体温を維持しようとする生理現象「シバリング」によるものです。低体温症が進むと震えは逆に収まり、動作が遅くぎこちない、判断力が低下するなどの症状が現れます。さらに体温が下がると昏睡や心拍・呼吸の低下が起こり、最後に心臓が停止します。
手足の指先の色の変化は、血管の収縮による血行不良の表れです。
症状3.意識が低下する
低体温症による血行不良は、全身の細胞への酸素や栄養の供給不足を招きます。集中力が低下するほか、次のような症状が現れます。
- 思考力が下がる
- 頭がぼんやりする
- 周囲からの呼びかけに対して反応が鈍くなる
- 意識を失う
このまま低体温症が進むと昏睡状態に陥るために内臓の働きが低下し、さらに体温が下がりやすくなります。
低体温症を引き起こす3つの原因
低体温症は、体の生み出す熱が体から失われる熱を下回ることで起こる症状です。体から熱が失われる要因には、気温の低い冬や登山、水難などとされています。
さらに高齢者にとっては、身体機能の低下も大きな要因です。ここでは、低体温症が起こる原因を3つ紹介します。
- 原因1.甲状腺機能低下症などの持病
- 原因2.気温が低い環境
- 原因3.身体機能の低下
とくに高齢者に起こりやすい条件もあわせて解説します。
原因1.甲状腺機能低下症などの持病
低体温症は、次のような持病によって起こりやすいとされています。
- 敗血症などの広範囲におよぶ感染症
- 中枢神経系の異常
- 糖尿病
- 甲状腺ホルモン低下症
- 下垂体機能低下症
- 副腎機能低下症
たとえば甲状腺ホルモンが減少すると、体の新陳代謝が阻害され、熱を生み出す機能が低下し低体温症の原因となってしまいます。糖尿病による血流の悪化も、同様です。
介護の現場でこれらの持病を患っている高齢者には、低体温症の可能性も踏まえて状況を見守ることが大切です。
原因2.気温が低い環境
体温が失われやすい条件には、「気温の低い場所にいる」「体温が失われやすい状況にある」などが挙げられます。イメージしやすいのは、雪が降るような寒い冬の屋外でしょう。冬に多いマラソン大会や冬山の登山などが該当します。
雪山遭難のように体を動かせない状態だと、低体温症のリスクは高まります。身動きが取れず、自ら熱を生み出すことができないためです。深部体温が低下し続け、体温が維持できなくなると低体温症に陥ります。
低体温になるのは、屋外とは限りません。さまざまな事情から暖房器具の使用をガマンした寒い室内や、暖を取るのが難しい災害時の避難所では、室内の気温が下がって低体温症になる恐れがあります。
原因3.身体機能の低下
人間の体は、適切な食事や運動などにより熱を発生させて体温を維持します。しかし病気やケガなどにより身体機能が低下すると、低体温症になるリスクが高まります。
昼夜逆転や運動不足、食生活の乱れといった不規則な生活では、年齢に関係なく注意が必要です。自律神経が乱れやすく、体温を調節する機能が低下しやすいためです。
高齢者の場合、加齢によって血管の収縮力が弱まり、熱を生み出しづらくなります。また、筋肉量が減ることも原因の1つです。体を動かすのがおっくうになって運動量が減り、筋肉量が減ってさらに体を動かさなくなる……という悪循環に陥ると、低体温症になる確率は上がります。
加齢により寒さを実感しにくくなることも、考慮すべきでしょう。気温が低いのに実感できないため、低体温症になってしまうのです。
【初期~中・重症度】低体温症の対処法
実際の介護の現場で低体温症とわかったら、すぐに対処する必要があります。低体温症の対処で大切なのは、まずは温めることです。しかし低体温症は、段階によって効果的な対処は違ってきます。ここでは段階を2つに分け、それぞれ温める際の注意点について考えてみましょう。
【初期】温める際の注意点
初期の段階で体が激しく震え始めたら、まずは暖かい場所に移動しましょう。濡れているときは衣服を脱がせ、肌や髪も水気を拭き取ります。暖かい飲み物を飲ませたり、毛布やストーブ、ヒーターなどを使ってとにかく積極的に体を温めることが大切です。
屋外であれば、地面に敷物を敷いたり風除けを作ったりして、体温が少しでも下がらないように工夫をします。厚着をしたうえで帽子やマフラーなどを使い、頭や首もしっかり保温しましょう。
【中度~重度】温める際の注意点
中度以上の低体温症の方を温めるときには、注意が必要です。初期のように積極的に体を温めるとたしかに血流は戻ってきますが、全身の冷えた血液が一気に心臓に流れ込んで心室細動を引き起こす危険性があります。
ヒーターなどの機器を使うのではなく、毛布などを使って緩やかに体温を上げるようにしましょう。温める部分は、心臓のある胸を中心とします。
低体温症の程度を見分ける方法として有効な基準は、体の震えがあるかどうかです。震えがない場合はすでに初期を過ぎている可能性があるため、すぐに救急車を呼びましょう。意識の低下があったり、呼吸・心拍が取れなかったりする場合は、心臓マッサージや人工呼吸も必要です。
高齢者の低体温症予防5つのポイント
低体温症は、命に関わる重篤な症状です。とくに高齢者は、加齢による身体機能の衰えや持病などの理由から、若い人より低体温症になりやすいといえます。
ここでは、低体温症予防のために普段から注意しておきたいポイントを5つ解説します。
- ポイント1.体を動かすことを習慣づける
- ポイント2.温かい飲み物や食べ物を意識的に摂取する
- ポイント3.生活習慣の見直しを図る
- ポイント4.湯船に浸かる習慣をつける
- ポイント5.室内環境を整える
ポイント1.体を動かすことを習慣づける
高齢者は筋肉量が減少しやすく、運動による熱を生み出しにくい傾向があります。低体温症を予防するためには、日頃から体を動かすことを習慣づけることが有効です。習慣的に体を動かし、筋肉を使うことで徐々に筋力がつけば、体を動かしやすくなって熱を生み出しやすい体に近づけられます。
適度な運動は、免疫力の向上が期待できます。さらに基礎代謝が上がることで内臓脂肪を分解し、悪玉ホルモンを減らす意味でもオススメです。1日30分のウォーキングやスクワットであれば、時間もお金もかかりません。今日から早速、体を動かすことを習慣づけましょう。
ポイント2.温かい飲み物や食べ物を意識的に摂取する
低体温症を予防するためには、温かい食べ物や飲み物を積極的に摂ることが大切です。温かいお茶・鍋料理・汁物などは、体を内側から温めてくれます。
また食べ物でも、体温を上げてくれる食材が入っているとより効果的です。たとえばショウガやニンニクには、体温アップ効果だけでなくカゼの予防 効果も期待できます。卵や納豆などに多く含まれるタンパク質も、代謝で多くのエネルギーを消費し、熱を生み出す源です。普段から積極的に摂取し、低体温にならないよう注意しましょう。
ポイント3.生活習慣の見直しを図る
不規則な生活習慣は、自律神経のバランスの乱れにつながります。さらに体温調節機能を低下させる原因の1つです。バランスが悪く時間が不規則な食事、運動不足、夜更かしや睡眠の質の低下による睡眠不足など、生活の中のストレスはどれも低体温症の原因となる要素となりえます。
低体温症を予防するためにはできるだけ良質な食事と睡眠を摂り、適切な運動をするよう心がけましょう。
ポイント4.湯船に浸かる習慣をつける
冬の脱衣場の寒さがこたえ、入浴回数を減らすことがあるかもしれません。また夏は気温の高さにより、シャワーで済ませてしまう場合もあるでしょう。
入浴は、冷えた体を芯から温められます。1日1回、朝でも夜でも構いません。10分ほどでよいので、しっかり湯船に浸かることを習慣づけましょう。そうすれば体の毛細血管が広がりやすくなり、血行が改善して体温の上昇が期待できます。
時間に余裕があれば、ぬるめのお湯に20分以上浸かるとさらに効果的です。入浴後は、水分補給を忘れずに行いましょう。
ポイント5.室内環境を整える
普段から長い時間を過ごす室内も、環境として気温を20度以上に整える必要があります。高齢者は寒さを感じにくい傾向があるため、20度以下でも寒いと感じられないかもしれません。実際には体が冷えているにもかかわらず、放置することもあるため注意が必要です。
高齢者でなくても、現在の気温を正確に測るのは簡単ではありません。室内のよく見える位置に温度計を取り付け、適宜調節するようにしましょう。
低体温症を理解し、ケアや予防に役立てよう
低体温症は、環境などの理由から深部体温が急激に下がる状態をいいます。体のさまざまな機能が失われ意識が低下し、最終的には死に至る深刻な状態です。とくに高齢者は普段から予防に努め、もしなってしまったら適切に素早く対処する必要があります。
高齢者は、体温の低下を感じにくい傾向にあります。温かい飲み物や食べ物を摂取する、入浴では湯船に浸かる、規則正しい生活を心がけるといった対策が重要です。高齢者の体調に細心の注意を払い、しっかりとサポートしましょう。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝
2011年 4月 入社 事業推進部 配属
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長
2023年 10月 常務取締役 兼 事業本部長 兼 事業推進部 部長