お役立ちコラム

ケアマネジャーの業務では、入居の相談や面接、利用者にとって解決すべき課題とその解決に必要な計画書作成など数多くあります。その中で、利用者のニーズを明確にするときに使うのがアセスメントシートです。

アセスメントシートを作成するには、まず基本的な書き方を理解し、重要とされるポイントを押さえなくてはなりません。ここではアセスメントシートを作成する目的と様式、書く必要のある項目を解説します。

アセスメントシートとは?作成目的と主な様式

アセスメントシートとは、ケアマネジャーが利用者やその関係者と面談して集めた情報をまとめた書類をいいます。アセスメントシートはその後、ケアプランなどの介護計画の基礎となるため、作成の目的やタイミングについても正しく理解しておくことが大切です。

ここではアセスメントシートを作成する目的と時期、そして主な様式を解説します。

アセスメントシート作成の目的

「アセスメント」には、「評価」や「査定」といった意味があります。介護におけるアセスメントシート作成の目的は、利用者の状況にまつわる情報を収集・分析し、現在のニーズや解決が必要な課題を明確にするための評価や査定です。

ケアマネジャーは自身が行ったアセスメントにより、利用者が介護サービスを利用することになった背景や必要としている支援の内容、現在の心身の状態、家族の生活環境といった情報をアセスメントシートとしてまとめます。アセスメントシートは、さまざまな介護サービスの中から利用者に適したものを選び出すための書類です。

アセスメントシートを作成する時期

アセスメントシートは、利用者との最初の面談時に活用します。ただし、利用者の状況は時間の経過とともに変化するため、必要に応じて見直さなくてはなりません。変化がない場合も、介護認定の更新時にはアセスメントを見直します。

アセスメントシートを参照するのは、ケアマネジャーだけではありません。そのため他職種の誰が見ても理解しやすく、誤解を生まない客観的で正確な記載が求められます。

アセスメントシートの主な様式

アセスメントシートの様式は、1つに統一されているわけではありません。厚生労働省が指定している23の課題分析標準項目を満たしていれば、独自の様式でも問題ないとされています。実際には、事業所が以下の7つの様式から1つを選んで使用しているのが現状です。

  1. 包括的自立支援プログラム:要介護認定に利用する認定調査票と関連している様式
  2. 居宅サービス計画ガイドライン:全国社会福祉協議会が作成した、エンパワメントサポートが含まれる様式
  3. MDS-HC方式:在宅介護と施設を両方利用する方の情報収集および分析の基準として活用されている様式
  4. R4:介護老人保健施設での支援に適した、公益社団法人全国老人保険施設協会が作成した様式
  5. ケアマネジメント実践記録方式:広範囲の調査分析が可能なため、細やかなケアマネジメントのしやすい様式
  6. 日本介護福祉会方式:利用者様の衣食住や健康、加増っ関係、社会関係の分析に適した様式
  7. 日本訪問介護振興財団版方式:高齢者に限定せず幅広く使える様式

厚生労働省の調査では、包括的自立支援プログラムは老健や特養といった施設サービスで、居宅サービス計画ガイドラインは居宅支援事業所で多く利用されています。いずれにしても様式は、利用者様の状況に応じて選ぶことが大切です。

参考:厚生労働省「介護保険制度におけるサービスの質の 評価に関する調査研究事業」

アセスメントシートの書き方│基本情報の重点項目

アセスメントシートに記載する項目は、大きく「基本情報に関する項目」と「課題分析に関する項目」の2種類に分けられます。

このうち基本情報に関する項目は、以下の9項目です。

  1. 氏名、性別、住所、電話番号などの基本情報
  2. 生活状況
  3. 介護保険などの被保険者情報
  4. 現在利用している介護サービスの状況
  5. 障害を持つ高齢者の日常生活自立度
  6. 認知症のある高齢者の場合、日常生活自立度
  7. 主訴(利用者様自身やご家族の希望、要望など)
  8. 認定情報
  9. 課題分析(アセスメント)の理由

これらの中からここでは、重点項目である「生活状況」「現在利用している介護サービスの状況」「主訴」の書き方を解説します。

参考:厚生労働省「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」の一部改正等に2021年4ついて」

生活状況

生活状況項目には、利用者様のこれまでの生活歴や現在の生活の状況を記載します。

これまでの就労歴や現在の生活環境、日頃の過ごし方や趣味といったまさに生活に関する情報をできる限り記載するのがこの項目です。ただし、ただ事実を並べるのではなく時系列に沿って記載すると、より状況が正確に把握できます。

日常の些細な情報が思わず介護に役立つことがあるため、知り得た情報はできるだけ漏らさず記載することが大切です。

サービス利用状況

介護保険給付の対象かどうかに関係なく、この項目には利用者が利用しているすべてのサービスを記載します。

介護サービスは、組み合わせを見直すことで全体の質を向上させることもできます。今後より適した介護を目指すために、サービス利用状況は欠かせない情報です。

ショートステイのような一時的なものも含め、利用しているサービスはもれなく記録します。

主訴

主訴とは、利用者自身や家族がとくに訴えている希望や要望のことです。介護の方針は、アセスメントシートの情報を元に作るものですが、主訴が曖昧であったり不明だったりすると、方針が適切かどうか正確に判断できない恐れがあります。

正確で明確な記載が求められる主訴では、とくに「誰の主訴なのか」は重要なポイントです。同じような主訴も、利用者様ご自身なのかご家族なのかによって、必要な支援やサービスも変わってしまう可能性があります。

細かなニュアンスまでしっかりと記録したいのであれば、聞き取った言葉をできるだけそのまま記載しましょう。

アセスメントシートの書き方│課題分析の重点項目

課題分析に関する項目は、次の14項目で構成されています。

  1. 健康状態
  2. ADL(日常生活動作)
  3. IADL(手段的日常生活動作)
  4. 認知
  5. コミュニケーション能力
  6. 社会との関わり
  7. 排尿・排便
  8. じょく瘡・皮膚の問題
  9. 口腔衛生
  10. 食事摂取
  11. 問題行動
  12. 介護力
  13. 居住環境
  14. 特別な状況(介護者による虐待や終末期ケアに関する状況など)

このうち「ADL」「IADL」「認知」「コミュニケーション能力」はとくに重要な項目です。それぞれを詳しく解説します。

参考:厚生労働省「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」の一部改正等に2021年4ついて」

ADL

ADLとは、日常生活における基本的な動作に必要な身体能力のことです。ADLには、寝返りや起き上がり、歩行、着衣、入浴、排泄などがあります。どれもうまくできない状態だと、日常生活に悪影響を与える要素です。

一般的にADLは「自立」「一部自立」「全解除」の3段階で評価しますが、これでは正確な評価や情報としての客観性に誤差が生じる恐れがあります。たとえば、「起き上がることはできるが時間がかかる」「介助なしで歩行はできるが、つえや歩行器が必要」といった状況は、どの評価に当てはまるか難しい問題です。

このような場合は、備考欄に詳細に記載することで状況をより的確に伝えられます。単に「評価する」のではなく、利用者様一人ひとり異なる「状況」を正確に伝えることが求められる項目です。

IADL

IADLでは、ADLよりさらに複雑な「手段的日常生活動作」を評価します。評価される項目は電話の使い方や買い物、食事の準備、家事、洗濯、移送の形式、自分の服薬管理、財産取扱能力の8項目です。

ADLと同様それぞれ3段階で評価しますが、家族での役割分担によってもともと行ったことのない動作もあります。そのような動作は、備考に「もともと行っていない」「家族が管理している」など記載することが重要です。

認知

認知の項目で評価するのは、日常生活において意思決定する能力です。これから入居する介護施設を探すとき、または施設が受け入れるかどうかを判断するときは認知項目を重視します。

施設への入居は、家族以外のさまざまな人と共同生活することを意味します。施設としては物忘れや被害妄想によるトラブル、暴言、暴力は、他の入居者のことを考えると避けなくてはなりません。有無だけでなく程度についてもしっかり情報を収集し、記録する必要があります。

コミュニケーション能力

コミュニケーション能力とは、利用者様の意思伝達の能力や視力、聴力、その他身振り手振りや表情などのポイントを評価する項目のことです。

「名前を呼ぶと声の方を向くか」「考えをまとめ望むものに対して『はい』『いいえ』で意思表示できるか」「声の大きさや言葉の明瞭さは十分か」といったことを客観的に評価します。コミュニケーション能力も、施設への入居やその他の介護サービスの利用では重視される項目です。

アセスメントシート作成時の3つのポイント

アセスメントシートの作成には、情報量の網羅性以外にも注意を必要とする3つのポイントがあります。

  • ポイント1.聞き取りは1時間程度で終える
  • ポイント2.客観的な内容を記載する
  • ポイント3.多職種と連携を図る

アセスメントシートはその後の介護サービス選びに影響する重要な書類です。これらの項目にも注意して、より的確な作成に努めましょう。

ポイント1.聞き取りは1時間程度で終える

初回の面談でアセスメントシート作成のための聞き取りをすると、それ以外の介護保険制度の説明などにかかる時間もあるため、どうしても長時間になってしまいます。しかし利用者や家族にとって、通常このような面談は不慣れなため疲れ果ててしまっても不思議ではありません。ケアマネジャーはこのような事情に配慮し、聞き取りは1時間程度で終えるよう効率よく進めることが大切です。

利用者や家族が話しやすい雰囲気を作ると、さまざまな情報が収集できるだけでなく聞き取りもスムーズに進めやすくなります。アセスメントシート作成だけに集中するのではなく、相手にしっかり寄り添う姿勢でいるよう努めましょう。

ポイント2.客観的な内容を記載する

アセスメントシートへの記載内容や評価は、介護施設のスタッフやかかりつけ医、看護師など多くの関係者が参照します。それぞれが適切にサービスを提供できるよう、客観的で具体的な内容を記載することが大切です。

具体的には、「記載に『5W1H』を明確に意識する」「主語を省略したり曖昧にしたりしない」「略語ではなく正式名称を用いる」といったことに注意する必要があります。

ポイント3.他業種と連携を図る

アセスメントシートに記載すべき項目は多く、なかには初回の面談だけや利用者・家族からの情報では十分把握できない場合もあるでしょう。十分な情報を得るには、介護相談員やソーシャルワーカー、看護師、リハビリスタッフなどといった他業種との連携が必要です。

通常利用者様の健康状態に関係する項目は、「主治医意見書」から記載します。アセスメントシート作成において、主治医意見書は早めに取り寄せておきたい書類です。

アセスメントシートの作成はよりよいケアへの第一歩

アセスメントシートは、利用者に適した介護サービスを選定する際に参考となる書類です。通常は7つの様式のいずれかを用い、定められた23項目についての評価や補足事項が記載されます。

ただ、より的確に情報収集するには利用者様やご家族からの聞き取りに加え、ソーシャルワーカーや看護師、リハビリスタッフ、かかりつけ医など他業種との連携が欠かせません。アセスメントシートには、利用者様のこれからの生活が安心、快適になるかどうかがかかっています。評価だけでなく適切に補足することで、より正確で充実したアセスメントシート作成に努めましょう。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝

2011年 4月 入社 事業推進部 配属 
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長
2023年 10月 常務取締役 兼 事業本部長 兼 事業推進部 部長