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お役立ちコラム
2023年9月1日
老人ホームでネイルを!介護施設やデイサービスで活躍する福祉ネイリストとは
手元を美しく見せられるネイルを希望する人は、高齢者にも多いようです。海外で主流のシンプルなネイルに比べ、日本のネイルは友禅や漆といった伝統工芸を採り入れるなど種類も多岐に渡ります。こうしたネイルを老人ホームの高齢者に施術するのが、福祉ネイルです。
この記事では、注目の福祉ネイルについて、その概要や魅力から注目される背景、将来性などについて解説します。
目次
福祉ネイルの概要
福祉ネイルは、ネイルサロンまで行くのが難しい方に向けた美容サービスの1つです。美容師やスタイリストは通常、美容サービスを店舗で提供します。店舗に行けない方に対しては、希望の場所に出向いて施術する出張形式の「訪問美容」として提供することもあります。
老人ホームに入居する高齢者の中にも、福祉ネイルによって「毎日が楽しみになる」という方は多いようです。
対象者・施術場所・施術時間
福祉ネイルの対象者は、高齢者や障がいを持つ方です。歩行や移動が難しい高齢者や病気によって体に麻痺がある方、精神疾患を持っている方などは、たとえ同行者がいても店舗まで行っての施術は難しいかもしれません。そのような方たちが「ネイルでおしゃれを楽しみたい」という要望に答えるのが、福祉ネイルです。
実際に施術する場所は、自宅だけでなく老人ホームやデイサービスといった介護施設という場合もあります。またサロンでは通常、施術に1〜2時間程度かかる場合も多いのですが、福祉ネイルでは高齢や障がいの程度や体力に配慮して、10〜20分にとどめることが多いようです。
目的
美容意識の高い方向けのファッションやアートのイメージが強いネイルですが、実は、心理的な効果も高いといわれています。手元を美しく整えることで、清潔感や品のよさを感じさせると同時に、気持ちを落ち着かせたり、高揚させたりする心理的な効果が期待される手法です。
とりわけ福祉ネイルの場合は、施術間のなにげない会話などのコミュニケーションで、日頃のストレス発散や心のケアという目的もあります。
「高齢になってもキレイでいたい」「気品を感じさせる自分でいたい」という気持ちは、素晴らしいものです。専門家が定期的に爪の状態を確認してケアすれば、健康維持やQOL向上にも役立ちます。
施術内容
高齢者施設における福祉ネイルの施術は、ネイルケアやハンドマッサージといった基本的なケアが中心です。マニキュアは軽く塗る程度で、通常店舗で提供されるジェルネイルを使うことはあまりありません。
これは、福祉ネイルが高齢者1人ひとりの状態や体調に配慮しているためです。体力や抵抗力が低下している高齢者は、施術に時間がかかると疲れてしまうでしょう。また、、細かなパーツを用いれば外れたとき誤飲のリスクも高まります。
福祉ネイルで使うマニキュアは、安全性が高く速乾性の優れたものです。福祉ネイルは、通常のネイルよりファッション性は低めで、衛生管理や健康維持を目的とする割合が高いといえます。
福祉ネイルの歴史
福祉ネイルの始まりは、2012年に現在の日本健康福祉ネイリスト協会理事長が依頼を受け、ある老人ホームに赴いてのネイル施術でした。
その後、高齢者や障がいを持つ方へ美容サービス提供を通じて感動を与えることを目的とし、2014年9月にはシニアメンタルビューティー協会(SMBA)を設立。2018年7月には福祉の場に当たり前のように美容が存在し、治療的介入としてのネイル施術をより広めるため、名称を一般社団法人日本健康福祉ネイリスト協会(JHWN)と改めました。
2020年9月には全国に950名以上の福祉ネイリストが誕生し、日々さまざまな施設で施術を続けています。
普通のネイリストとの違い
一般的なネイリストは、お客様の爪を美しく見せるためにさまざまな技術を提供します。お客様が求めているのは、より美しくオリジナリティやアート性の高いネイルそのものといえるでしょう。
一方の福祉ネイルでは、仕上がりの美しさだけでなく、高齢者や障がいを持つ方それぞれの状態に合わせた環境設定や施術方法が求められます。とくに認知症の方には施術中、コミュニケーション手法の1つ「ユマニチュード」や回想法などの治療的介入技術を採り入れ、心が安定し明るく過ごすきっかけとすることも可能です。
福祉ネイルが注目される背景
年齢を重ねるごとに人間の体は変化し、外見も大きく変わります。しかし、「キレイでありたい」という気持ちは残っているものです。その面でネイルは、他の美容サービスより比較的手軽に受けられるものといえるでしょう。
手軽さ以外にも、福祉ネイルが注目されている理由はあります。ここでは、今福祉ネイルが注目されている2つの理由を、詳しくみていきましょう。
ビジネスチャンスがあるから
高齢者施設での福祉ネイルは、ビジネスチャンスそのものです。
美容サービスへの支出額は、年齢が上がるごとに増え続け、とくに70代女性が高いとされます。老人ホームに入居している方は70代も多く、なかにはネイルを希望する方もいるでしょう。ネイルを希望しても外出できず、諦めている方がいるかもしれません。
高齢者向けのネイルには、福祉ネイルだけでなく、ネイルサロンでのサービスや家庭での簡単なネイルケアなどがあります。通常のネイルサロンでも、ここ数年は60歳前後の来店数は増える傾向にあり、潜在的なニーズは高まりつつあるといえるでしょう。
認知症ケアのユマニチュードとの親和性があるから
ユマニチュードは、フランスを発祥とする認知症ケア技術の1つです。基本となるのは、「見る」「話す」「触れる」「断つ」という4種類の動作。相手が「大切な存在だ」と感じるようにケアすることで、認知症の方もより安心できる技術とされています。
福祉ネイルは、ユマニチュードの要素4つすべてを含むサービスです。
- 見る:向き合って施術するため、見つめ合う
- 話す:施術中になにげない会話をし、コミュニケーションをとる
- 触れる:手と手、指先と指先、ときには腕にも触れる
- 立つ:施術場所まで立って歩き、終わったらまた立って帰る
施術された認知症の方のなかには、好きな色に塗られた爪を見て「うれしい」という情動のあまり、急に話始めることもあるようです。これはネイルが、言葉や体といった枠を超えた情動がもたらされるためかもしれません。
認知症の方に限らず、福祉ネイルには「施術された方の気持ちを動かすよい効果があるのではないか」と感じるネイリストもいるようです。
福祉ネイルの魅力
福祉ネイルは、美容サービスとしての「美を追求する」という目的を持ちながらも、施術で相手を笑顔したり、相手から感謝されたりする社会貢献のような側面も持っています。
多くのサービス業の目的は、「お客様から感謝されるサービスを提供する」ことです。福祉ネイルは、これをより実感しやすいサービスといえます。施術で収入を得られると考えれば、やりがいもあるたいへん魅力的な仕事と感じるでしょう。
福祉ネイルは、性別を問いません。さらに、介護職員から施術を依頼されるケースも多いようです。福祉ネイルはこれからもますます、ニーズは高まっていくことをうかがわせます。
福祉ネイリストに必要な資格
福祉ネイリストとして働くためには、必須となる資格はありません。しかし、ネイルの知識や技術はもちろん、福祉ネイリストには高齢者に対する理解が求められます。
日本保健福祉ネイリスト協会の「福祉ネイリスト認定制度」は、その一例です。まずは日本保健福祉ネイリスト協会認定校で1週間の講習を受け、カリキュラムを修了します。その後卒業試験に合格して実地研修を踏めば、認定証(ディプロマ)が発行されます。
福祉ネイリストの働き方
福祉ネイリストには、さまざまな雇用形態や就業場所が考えられます。1つ言えるのは、「一般的なネイリストのように店舗を構えることは稀」ということです。依頼された日時に訪問し、時間内に施術するのが多いでしょう。
ここでは福祉ネイリストの、仕事としての実際の様子を、「雇用形態」「仕事をする場所」「収入」に分けて解説します。
雇用形態
福祉ネイリストは、施設や事業者から依頼を受ける「業務委託」であることが多いようです。正社員や契約社員のように施設や事業者から雇用されているケースは、あまりありません。
福祉ネイリストとして認定されているからといって、いつでも希望通り仕事ができるわけではないことにも注意が必要です。そのため、本業のかたわら副業としている福祉ネイリストも多いとされます。日本保健福祉ネイリスト協会などの団体に所属すると、訪問施設を紹介してもらえることもあるようです。
仕事の受注や情報収集、信頼関係の構築も、自身の手で行う必要があります。また受注の際、ネイリストとしての施術経験が必要な場合もあるでしょう。できるだけネイルサロンなどで実務経験を積んでおく方が安心です。
仕事の場所
仕事をする場所の多くは、老人ホームやデイサービス、サービス付き高齢者向け住宅などの施設ですが、依頼内容によっては個人宅という場合もあります。
また福祉ネイリスト自身で施術に必要な道具は持参するのが基本です。仕事をするときは万が一に備えてネイリスト保険への加入が義務付けられているため、必ず加入しましょう。
収入
福祉ネイルの客単価は通常、1,000〜3,000円程度と普通のネイルサロンより低めです。しかし、1人に必要な施術時間は20分前後と短く、より多くの施術ができれば、その分多くの収入を見込めるでしょう。
仕事の時間もある程度調整できるため、子育てや家事などとの両立も可能です。1つの施設で十数人に施術すれば、収入は1万〜3万円になります。複数の施設から安定して受注できれば、月10万円以上となることもあるようです。
また福祉ネイルと合わせて、ハンドマッサージなどのサービスを追加すれば、客単価を上げることもできます。相手のニーズに適したスキルアップによって、より高収入がのぞめるでしょう。
福祉ネイルと医療について
高齢者施設では、入居者の健康管理が重要です。その方の健康状態によっては、指にパルスオキシメーターをつけて、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を記録していることがあります。
パルスオキシメーターは、指先の爪と腹をはさんで測定する医療機器です。ネイルを施した指だと、通過する発行成分が変化し、間違った数値を示してしまうことがあります。
高齢者に多くのメリットをもたらす福祉ネイルですが、施設の業務を妨げてしまわないような配慮が必要です。
福祉ネイリストの将来性
進行し続ける日本の超高齢化は、介護業界の人材不足や介護そのもののあり方が問われる、社会全体の問題です。
福祉ネイルには、高齢者や障がい者1人ひとりと向き合って施術すること、ユマニチュードを満たしていることによる認知症の周辺症状の緩和といった、優れた効果が期待できます。とくに認知症との関連では、ネイルが与える影響の研究が進み、福祉ネイリストの研修集会も開催されるようになりました。
福祉ネイリストの数は、増加傾向です。今後より活躍の場が広がり、需要は高まっていくでしょう。
福祉ネイリスト以外の高齢者のQOLに関わる仕事
そもそもメイク(化粧行為)には、気持ちを引き締めたり、人と会うとき自信を持てたりといった、QOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)向上に効果があるとされます。
ここでは福祉ネイリスト以外の、高齢者のQOL向上に役立つ美容サービスの仕事を2つ解説します。
メイクアップアーティスト
メイクアップは、化粧行為の代表といえます。化粧をしなくなると外出の頻度が下がり、買い物やコミュニティへの参加といった人とのさまざまな交流や社会とのつながりが希薄になる原因にもなり、注意が必要です。
普段から化粧している方でも、プロのメイクアップアーティストの技術やアイテムで新しい自分を見つけられる可能性があります。体に不自由があっても残っている機能を使って化粧する方法を見つけるため、リハビリに精力的になれるかもしれません。
メイクアップアーティストは、脳を刺激して気持ちを変えたり、とくに上肢のよい運動になったりでき、高齢者のQOL向上に役立つ仕事の1つです。
アロマセラピスト
人間は、身近な植物を食べたり、すりつぶして塗ったり、香りをかいだりして傷や病気の治療に役立ててきました。このうち植物の香りを心身の回復や健康、美容に用いる自然療法の1つが「アロマテラピー」です。
アロマセラピストは、アロマテラピートリートメントやコンサルティングによって、相手をリラックスさせる技術を有します。さらに睡眠の質の向上や免疫の強化、消化を促進といった効果が期待できるでしょう。
アロマテラピーは、運動機能とは違い、嗅覚という感覚を通して心身を心地よく刺激する手法です。体が自由にならない高齢者や障がい者にとっても、また性別に関係なくより幅広い方に提供できるサービスといえます。
福祉ネイリストの需要はこれからも高まる
超高齢化により、高齢者を対象としたさまざまなサービスが注目されています。高齢者のニーズが高く、QOLの維持向上や認知症ケアにも役立つ美容サービスの1つが福祉ネイルです。
福祉ネイルは通常のネイルとは違い、美しさやファッション性だけを目指しているわけではありません。施術中の「見る」「話す」「触れる」「立つ」という動作には、認知症の方を落ち着かせる効果も期待できます。
福祉ネイリストに資格は問われませんが、正しい知識と豊富な経験を持つネイリストの方が安心です。まずは一般的なネイルの資格を取得し、その後福祉ネイリストの認定を受けることも必要でしょう。
「いつまでもキレイでいたい」とする高齢者の割合は、今後も増加すると考えられています。福祉ネイルは、高齢者が必要とするかけがえのないサービスとなるでしょう。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝
2011年 4月 入社 事業推進部 配属
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長
2023年 10月 常務取締役 兼 事業本部長 兼 事業推進部 部長