お役立ちコラム

介護の必要な高齢者が老人ホームへ入居することは、本人にとっても家族にとってもより心穏やかに、安心して生活できるかけがえのない場所にもなり得ます。しかしなかには本人の入居拒否のために、在宅介護を続ける場合もあるかもしれません。

この記事では、本人が入居拒否する代表的な理由とこのまま在宅介護を続けるリスク、対処法などを解説します。

本人の入居拒否があっても老人ホームには入居可能

老人ホームで実際に生活するのは、高齢者本人です。本人が入居拒否していれば、家族は「これからの老人ホームでの生活はうまくいかないだろう」と考えるでしょう。「入居させない方がいい」と考える家族も、多いかもしれません。

実は、本人の同意がなくても老人ホームへの入居は可能です。ここでは介護の必要な高齢者が、老人ホームへ入居することについて考えてみましょう。

入居にあたり本人の同意は必須ではない

老人ホームへの入居にあたっては、本人の同意がなくても、家族の意向があれば手続きを進めることは可能です。これは、認知症が進む影響で意思表示の難しい場合があるためともされています。もちろん、本人の同意があれば、話はよりスムーズに進むでしょう。

老人ホームへ「希望して入居した」という高齢者は、少ないかもしれません。これまでとまったく違う生活環境や人間関係にさらされるのはもちろん、自分の好きなことができなくなるかもしれないと思えば、入居拒否する気持ちも理解できます。

ただ自宅での介護を続けるのは、大変なことです。精神的な負担が大きいだけでなく、介護のために仕事を辞めることになれば経済的にも負担は大きくなります。このような背景も、入居の際本人の同意が必須ではない理由の1つなのかもしれません。

ただし無理やり入居は避けたいもの

どれほど家族が大変だからといっても、無理に老人ホームに入居させることにはリスクが伴います。考えられるのは、「環境の変化についていけず精神的な負担が増す」「家族内の関係が悪くなる」「うつ病や認知症を発症してしまう」などといったリスクです。このようなことを考えると、やはり無理やりの入居は避けたいのが本音でしょう。

ただし、老人ホームへの入居は、タイミングを逃したくないものです。条件が整った施設は「入居待ち」となっていることも多く、一度タイミングを逃すといつ入居できるかわかりません。

老人ホームへの入居は必要になってすぐできることではないため、元気なうちから本人の気持ちや環境の整備、家族との話し合いを積み重ね、備えておきたいところです。

老人ホームへの入居を拒否する理由

老人ホームへの入居を拒む人に必要性だけを主張するだけでは、前向きな入所検討を促すのは難しいかもしれません。こちらが主張する前に、まずは本人の「老人ホームへ入居したくない理由」を考えてみる必要があります。

ここでは老人ホームへの入居を拒否する、代表的な理由について考えてみましょう。

長く住んだ自宅から離れたくないから

長く住んでいる自宅ほど安心できる場所はありません。使い慣れた家具やこれまで買い貯めてきた本や衣服などがすべてそろっていて、いつまでテレビを見続けても誰にも何も言われないのは自宅くらいではないでしょうか。だからこそ、自宅という住環境を変えたくないのも当然といえます。

また、高齢者が自宅とは違う環境に慣れるのは、想像以上に困難です。老人ホームでは、他の入居者とも近い距離感になります。また介護スタッフとの関わりも生まれ、望む望まないに関係なく人とうまく付き合っていく必要が生じます。

自宅であれば、長年顔なじみのご近所さんと立ち話するだけでも気晴らしになるでしょう。気心の知れた相手を新しく作らなくてはならないと思えば、面倒や苦痛に感じても仕方ないでしょう。

施設にネガティブな印象を持っているから

老人ホームのような高齢者を対象とした介護施設に対して、は「家族から見捨てられた人がいく場所」「自由に暮らせない」「スタッフに意地悪な人がいる」など、ネガティブなイメージを持っている人が少なくありません。

たしかにごく一部には、こうした悪質な老人ホームがあるかもしれません。しかし、多くの施設はこのようなイメージと異なる環境です。家族と同じように接してくれるスタッフが、入居者が少しでも充実した暮らしができるようサポートしています。

ただ言葉で伝えるだけでは、イメージはなかなか変えられないかもしれません。施設の本当の姿を見てもらう必要があるでしょう。

まだ自分に介護は要らないと思っているから

自分が何をどれくらいできるかを正確に把握している高齢者は、実は少ないかもしれません。身体的な能力の衰えを本人が自覚するのは、難しいものです。周囲から見れば明らかなほど介護が必要でも、本人は認めず「まだ介護などいらない」と思っていれば、入居を拒否するのも当然といえます。

とくに一人暮らしの高齢者は、不自由があってもなんとか生活できていることも多いようです。ただできないことを「できない」と見せつけるのは、逆効果になるかもしれません。話を聞くどころか、意地になって入居拒否の意思をより強めてしまう可能性があるでしょう。

家族に面倒をみて欲しいと思っているから

もし高齢者が、介護されることを「弱みを見せる」ととらえていれば、他人ではなく家族に介護して欲しいと思うでしょう。これは介護に対する古い常識が影響しているのかもしれません。

日本には、「高齢者の介護は家族が担うもの」という考え方が常識とされた時代がありました。5人、6人きょうだいもめずらしくなく、家族だけでも十分介護できる状況でした。今は、高齢者が全人口の3割に達するともいわれる時代です。そもそも、子どもが実家から離れた場所に暮らしていれば、介護は物理的に不可能です。

一方で、家族にも「できるだけ家族が面倒を見なくては」という考え方が強く残っている場合もあります。介護する側とされる側の強い思いが、入居拒否の原因にもなり得るのです。

入居拒否により在宅介護を続けるデメリット

本人の入居拒否によって、老人ホームに入居せずに在宅介護を続けるという選択肢もあります。ただし在宅介護を続けていくことは、決して簡単なことではありません。気持ちの上で望んでいても、現実的にみれば在宅介護にはさまざまなデメリットがあるためです。

ここでは本人の入居拒否を受けて、在宅介護を続けていくことのデメリットを解説します。

介護離職により経済的に困る可能性がある

介護は、片手間でできることではありません。介護している間は自分だけの時間を確保するのが難しく、食事や入浴、買い物さえ思い通りにならない状況に陥りがちです。介護にあたる人は介護の専従となり、他に仕事に就けないため収入が得られず、経済的に困窮してしまう恐れがあります。

経済的な余裕がなくなれば、徐々に精神的にも追い詰められるかもしれません。介護うつや虐待につながることもあるため、注意が必要です。

精神的に疲れる可能性がある

介護は、肉体的にも精神的にも疲れやすいです。とくに寝たきりの方の介護は、24時間365日の対応が必要な場合もあり、介護にかかりきりとなってしまうことも少なくありません。

介護をする人もこもりがちになり、社会的に孤立するでしょう。介護の不満や愚痴などを話せる相手も限られ、ストレスはたまる一方です。ひどくなると、介護うつを発症してしまうこともあります。

ストレスにより虐待に発展する可能性がある

ストレスがたまりやすい在宅介護では、身体的な疲労に精神的な疲労が重なり高齢者を虐待してしまう事態に発展する可能性があります。

虐待は介護うつと同じように、介護にかかりきりになる状況で起こりがちなリスクです。1つ違うことは、虐待が高齢者の命に関わる重大事であることだといえるでしょう。

老人ホームの入居拒否への対処法

老人ホームへの入居を拒否する理由は、人それぞれです。同時に、老人ホームへ入居してもらいたい理由も状況によって異なります。在宅介護が続けられなければ、なんとかして対処し入居してもらえるよう説得しなくてはなりません。

以下では、本人の入居拒否への対処法について解説します。

伝え方に気をつけて本人と話し合う

高齢者本人と家族の以降がすれ違っている場合、老人ホームへの入所についてじっくり話し合われていないことも多いようです。どうして入居を拒否するのか、なにが問題なのか、なにか必要な条件があるのかなど、まずはよく話し合ってみる必要があるでしょう。

話し合いでは相手に誤解されないよう、相手への伝え方に配慮が必要です。たとえばただ「介護がつらいから入居して欲しい」といえば、高齢者は「邪魔者扱いされた」ととらえてしまうでしょう。話し合いでは、主張するだけでなく、相手の心情や状況への理解も重要です。無理強いするつもりはないことを伝え、相手がわかりやすいよう丁寧に説明する必要があります。

愛情をしっかりと伝える

「老人ホームへ入居して欲しい」と伝えれば、高齢者は「見捨てられた」「厄介払いされた」「自分は嫌われている」と感じてしまうかもしれません。今までの生活から離れてしまう寂しさや、変わってしまう生活への恐れと相まって大きな不安の原因になります。

このような不安を解消するには、家族の愛情が必要です。決して見捨てるわけではないこと、家族だけでなく本人にとっても生活しやすくなることなどとあわせて、入居後もできるだけ会いにいくこともしっかり伝えましょう。

本人と施設選びをする

本人が生活していく施設を家族が勝手に決めてしまえば、つらく不愉快に感じても不思議ではありません。老人ホームなどの施設選びをするときは、できるだけ本人にも参加してもらいましょう。

一緒にパンフレットを見たり、施設を見学に行ったり、他の入居者の話を聞いたりすれば、拒否する気持ちも和らぐ可能性があります。また、施設に求める条件がより明確になることもあり得ます。

老人ホーム・施設に少しずつ慣れてもらう

老人ホームや施設への入居を拒否する理由には「知らないことに対する不安」もあるでしょう。いきなり老人ホームに入居するかしないかではなく、まずは日帰りで利用できるデイサービスや短期間のショートステイで施設を体験してみるのは効果的です。何度か利用していれば徐々に慣れていき、入居拒否の気持ちが和らぐかもしれません。

施設の体験だけでなく、スタッフとの触れ合いの体験も重要です。スタッフは家族にとって介護に関する貴重な相談者になり得ます。事前に相談すれば、スタッフから本人へ入居に関する話をしてもらうことも可能です。

本人の生活に合った施設を探す

「草花を育てたい」「自由に楽器を弾ける場所が欲しい」というように、好きなことや趣味で続けたいこともあるかもしれません。このような場合は、高齢者本人の希望する生活を実現できそうなところを探しましょう。

希望がかなうことはもちろん、希望をかなえようとしている家族の気持ちに打たれ、入居拒否の気持ちが変わる可能性もあります。施設選びではやはり、本人の希望に沿って生活できることが大切です。

専門家に協力してもらう

「いくら話し合っても平行線のままだ」「話し合いでかえって関係が悪化し、話を聞いてもらえなくなった」といった状況では、当事者だけでの解決は難しいかもしれません。このようなときは、介護や高齢者医療などの専門家に協力してもらうという方法があります。

担当のケアマネジャーや地域包括支援センターの担当者、主治医、介護施設のスタッフなどに協力を仰ぎましょう。専門家は知識も経験も豊富であり、アドバイスには説得力があります。本人も、家族ではない専門家の意見なら熱心に聞くかもしれません。

説得できなければ強制的に入居させる場合もある

説得しても本人の入居拒否の意思が変わらず、一方在宅介護も続けられない場合は、強制的に入居してもらうことも検討する必要があります。無理に在宅介護を続けても、介護者が心身ともに疲れ果て介護できなくなってしまえば、結局は入居せざるを得ません。

老人ホームにすすんで入居するケースは、多くないのが実状です。戸惑いや不安を抱きながら入居する高齢者に対して、スタッフは十分に配慮します。うまくなじめれば、老人ホームでも楽しく生活できるでしょう。

あなぶきの介護では、入居者が今までと変わらない生活を送れるように努めています。心豊かな毎日を過ごしていただくことが、私たちあなぶきの介護の願いです。見学も随時受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。

あなぶきの介護

老人ホームは本人の同意なしでも入居できる

介護が必要な高齢者に老人ホームへの入居を理解してもらうのは、家族にとって大きな仕事です。現実的には、本人が積極的に入居するケースは多くありません。ただし、老人ホームには本人の同意がなくても入居できます。多くの高齢者が不安を抱えながら入居するのが実状です。

今後の生活や介護者の負担を考え、入居してもらえるよう対処しましょう。入居先の検討には本人にも参加してもらったり、デイサービスやショートステイなどを体験してみたりして、老人ホームについての理解を深める必要があります。

説得には、介護の専門家のアドバイスも有効です。担当のケアマネジャーや地域包括支援センターの担当者、主治医、介護施設のスタッフなどの意見を採り入れながら、前向きな検討をしてください。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝

2011年 4月 入社 事業推進部 配属 
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長
2023年 10月 常務取締役 兼 事業本部長 兼 事業推進部 部長