お役立ちコラム

人間は1日に何度も立ち上がり、しゃがんだり歩いたりして膝関節を使います。膝が痛くなって曲げ伸ばししづらくなると、生活のさまざまな場面に支障が出るのはもちろん、気分まで落ち込みかねません。体のさまざまな機能が低下する高齢者となれば、なおさらでしょう。

この記事では、高齢者に起こる膝の痛みの原因と対処法や治療法を解説します。「なんとかして膝の痛みをやわらげたい!」という方は、ぜひ参考にしてください。

高齢者の膝の痛みが生活におよぼす影響

「立ちあがろうとすると痛む」「痛むから階段を降りるのが怖い」という膝関節の症状は、中高年に多いといわれています。膝の痛みは、「変形性膝関節症」によるものが多いようです。

変形性膝関節症は、膝の内側がすり減り、炎症や骨の位置がずれることで起こります。長い人生をともに歩んできた高齢者の膝が痛むのは、当然といえるかもしれません。

変形性膝関節症は、とくに女性に多いとされます。以下のような、女性ならではの特徴が原因です。

  • 筋肉量が少ないため、足の内側の筋肉が弱ると膝関節が不安定になりやすい
  • 加齢による基礎代謝の低下で太りやすく、膝にかかる負荷が大きくなりやすい
  • 閉経によるホルモン分泌の減少から、骨が弱くなりやすい

一方の男性も、変形性膝関節症を患う可能性は十分あります。進行すれば激しい痛みで歩けなくなることも多いため、痛みを感じる前からしっかり予防することが大切です。

高齢者の膝の痛みのよくある原因

高齢者の膝の痛みの原因は、さまざまです。膝痛を予防する場合には、起こりうる原因を把握して日頃から注意する必要があります。

ここで解説するのは、ある程度予防が可能な原因ばかりです。これからも膝を良い状態に保つため、しっかり把握しておきましょう。

関節炎

関節に負担がかって炎症を起こし、痛みや腫れを生じるのが関節炎です。関節炎の原因には、次のようなものがあります。

  • 加齢によって筋肉が弱まる、または外傷によって関節が変形してしまう
  • 肥満や過度の使用によって関節に大きな負担がかかる
  • 細菌感染やウイルス感染、痛風、膠原病などの疾患

このように、膝の痛みにつながる関節炎にもさまざまな要因があります。痛みを予防するには、要因ごとに注意し備えることが重要です。

過度の使用や負傷

膝の障害は、アスリートによく見られます。スポーツの場面では、膝を繰り返し曲げる動作が多いためです。たとえばランナーズニーは、ウォーキングやジョギング、サイクリングなどのスポーツでも起こる、膝の過度な使用が原因とされます。

長年使われてきた高齢者の膝関節も損傷する可能性が高く、注意が必要です。とくに負傷しやすい部位には、膝関節でクッションの役割を果たす「半月板」や、関節の周りで骨と骨をつないで安定させる「靭帯」などがあります。靭帯は、損傷すると関節が不安定になるため軟骨に負担がかかり、変形性関節症となってしまうこともある重要な部位です。

筋力低下や柔軟性不足

膝の痛みの原因には、運動不足も挙げられます。運動しないことによって膝関節の動作に必要な筋力や筋肉の柔軟性が低下し、関節内にかかる圧力が分散されずに痛みが発生するためです。また、膝の曲げ伸ばしがスムーズにできない状態で動作するときも、痛みは発生します。

とくに高齢になると、仕事やお付き合い、買い物などで出かける機会そのものが減る傾向です。そのような高齢者にこそ、膝周りの筋力強化、柔軟性アップのための運動やストレッチが有効でしょう。

体重増加

体重増加もまた、関節の変形や関節炎を引き起こします。膝にかかる負荷は歩くだけでも体重の約3倍とされ、体重が増えるとさらに負荷が大きくなるためです。

人は普通に生活するだけで、何度も立ち上がって歩いたり、走ったりします。大切な膝を守るためにも、適度な運動で体重増加を避ける必要があるでしょう。

高齢者が自宅でできる膝の痛みへの対処法

膝の痛みを抱えているのであれば、これ以上悪化させないと同時にできるだけ痛みを緩和したいところでしょう。もちろん痛みがひどい場合は病院を受診し、状態に合わせた治療を受ける必要があります。しかしそこまででなければ、まずは自身でできる対処法によって様子を見てよいかもしれません。

ここでは、高齢者が自宅でできる膝の痛みへの対処法をご紹介します。

膝の負担を減らすよう日常生活で工夫する

膝の負担を減らすための工夫には、次のような方法が挙げられます。

  • 膝を冷やさない
  • イスを取り入れるなど洋式の生活に変える
  • 体重が増えすぎないよう食事を調整する
  • なるべく体を動かす

膝が冷えると血流が滞って筋肉が硬くなり、膝関節全体が動きにくくなります。そのため、膝を冷やさないことは大切です。寒い場所では膝掛けやカイロを使ったり、入浴では湯船に浸かってしっかり温めたり、女性ならスカートではなくスラックスをはいたりして、冷えにしっかり対策しましょう。

痛みを和らげる簡単な運動やストレッチをする

膝の痛みを和らげるためには、膝周りの筋肉を動かして筋力をつけたり柔軟にしたりする運動やストレッチが有効です。

たとえば大腿四頭筋(太ももの前側の大きな筋肉)のストレッチには、次のようなものがあります。

  1. 壁に片手をつけて、もう一方の手で片足のつま先をつかんで膝を曲げる
  2. つかんだつま先をお尻に近づけ、大腿四頭筋を伸ばす
  3. 息を吐きながら30秒キープする
  4. 同じように反対側もストレッチし、それを2〜3セット行う

前脛骨筋(すねの前側の筋肉)と腓腹筋(ふくらはぎ)のストレッチは、床に座ったままでできる簡単なものです。

  1. 両足を伸ばして床に座る
  2. つま先をゆっくり前に伸ばす(すねの前側の筋肉を伸ばす)
  3. つま先を手前に引き寄せる(ふくらはぎを伸ばす)
  4. 2と3を10回繰り返す

どちらも簡単とはいえ、無理は禁物です。運動し過ぎるとかえって痛みが増す可能性もあるため、注意しましょう。

適切な靴やサポーターを利用する

歩くときの衝撃を緩和して、膝への負担を軽減する役割を持つ靴は大切です。かかとから足首にかけてしっかりホールドするため、歩行のブレを抑える効果が期待できます。

歩行を安定させるためには、ヒール高を2センチメートル程度にとどめましょう。O脚であれば、靴の外側が高いインソールを使うと効果的です。

膝の痛みを和らげるためには、サポーターを活用する方法もあります。サポーターを装着すれば、膝をしっかり固定しながら冷えも防止できます。痛みを和らげ、動作を安定させることが可能です。歩行などの動作も、楽になるかもしれません。

靴やサポーターは、使う人に合うものを選ぶことが大切です。直接身につけるため、慢性皮膚炎やアレルギーがある場合はより慎重さが求められます。サイズもタイト過ぎずルーズ過ぎすない、ちょうど良いものを選びましょう。

高齢者の膝の痛みに対する病院での治療法

膝の痛みが増すと、日常生活にさまざまな影響が出てきます。「一日中痛がっている」「痛みのせいでよく眠れない」といった状況になれば、自力だけで改善するのは難しいのかもしれません。できるだけ早く受診し、適切な治療を受けることが大切です。

なかには、どのような治療が行われるのか心配という人もいるでしょう。そこでここでは、高齢者の膝の痛みを、病院で治療するときの手法について解説します。

薬物療法

膝の痛みに対する薬物療法には、膝を動きやすくする関節内注射や飲み薬、外用薬が挙げられます。

  • 関節内注射:関節内の関節液に多く含まれるヒアルロン酸を注射することで、軟骨を守り膝の痛みや炎症を抑える効果が期待できる。原則として毎週1回、5週間にわたって注射し、その後も症状に応じて継続する。炎症がひどく、痛みが強い場合はステロイドを注射する場合もある。
  • 飲み薬:痛みや炎症が抑えられる非ステロイド生消炎鎮痛薬を服用する。ただし長時間毎日のように服用し続けると胃腸障害など副作用が起こる場合もある。
  • 外用薬:シップ薬や軟膏、ゲルなどの塗り薬を用いる。

どの手法も、医師の診断と処方が必要です。医師の指導のもと、治療に努めましょう。

運動療法

膝関節の痛みの治療には、運動療法も有効です。整形外科外来では、必要なリハビリを行えることも多いでしょう。

膝に痛みがあると、動くのが億劫になり、運動量が減りがちです。そのまま運動しないでいると、筋力が弱ってしまいます。とくに膝周りの筋力低下は、膝関節の変形にもつながるリスクです。

運動療法では、膝周りの大腿四頭筋やハムストリングス、下腿三頭筋などの筋力を維持・向上させるための運動やストレッチを行います。

膝周りの筋肉を鍛えることは、膝の痛みの軽減や、変形性膝関節症の進行抑制にも効果的です。ただし、その人その人に合わせた適切な運動をしなければなりません。医師の診断に則し、正しい運動療法を行うことが大切です。

装具療法

膝痛の原因によっては、装具療法が用いられます。これは、足に装具を付けたり、靴に靴底をつけて体重のかかる場所を変えたりする治療です。

日本人の膝の痛みは、O脚が原因であることが多いとされます。O脚による膝の痛みの原因は、膝の内側に強く体重がかかり、内側の軟骨が壊れてしまうことです。

装具自体は、健康用品や靴を取り扱う店舗などで買うこともできます。しかし、膝やO脚の状態や程度は人によって異なるため、ぴったりな装具を見極めるのは困難です。装具療法を用いる場合は、専門医の診断をもとに行われる必要があります。

物理療法

物理療法は、光や熱、電気的な刺激などを用いて痛みや炎症を抑える手法です。大きく「温熱療法」と「寒冷療法」に分けられます。

  • 温熱療法:膝を温めて血行を促し、痛みを和らげる治療法で、病院では赤外線や低周波、レーザー、ホットパックなどが用いられる。痛みの予防には「冷やさない」ためのサポーター装着も効果的である。
  • 寒冷療法:冷シップや冷やした濡れタオルなどで冷やし、痛みを和らげる。

外科手術

膝の関節が変形してしまった場合は、次のような外科手術を用いることがあります。

  • 関節鏡視下手術:膝の中に小さいカメラをいれ、状態を見ながら軟骨のけばだった部分を切り取ったり、半月板を縫ったり切り取ったりする手術。小さな穴を開けるだけであるため、患者の負担が少なく入院期間も短く済む。
  • 人工膝関節置換術:膝の軟骨がすり減りなくなってしまったとき、関節全体を金属やプラスチックでできた人工関節に取り替える手術。

高齢者の膝の痛みの予防方法

膝の痛みは強いほど、対処や治療に手間と時間がかかります。な痛みによるつらさはもちろん、日々の生活が制限されることは大きなストレスにつながり、精神的な悪影響を及ぼしかねません。そうなってしまう前に、予防しておくことが大切です。

ここでは、高齢者の膝の痛みを予防する方法について解説します。

適度な運動をする

膝関節の痛みを予防するには、周囲の筋肉を強化し、筋肉や腱の柔軟性を高める必要があります。膝の痛みの多くは、膝周りの筋力低下による関節の変形が原因であるためです。筋力をつけるためには運動が必要であり、柔軟性を高めるためにはストレッチが有効でしょう。

近年、適度な運動によってコラーゲンの生成が促進され、関節内の軟骨に関節液を届けやすくなることがわかっています。コラーゲンは軟骨の主成分であり、関節液は関節のスムーズな動作に欠かせません。無理のない程度のウォーキングやストレッチは、関節の構造にも痛みを予防する効果が期待できるでしょう。

食事に気を配る

膝の痛みの予防には、食事への配慮も効果的です。高カロリーの食事は、体重増加による膝への負担増に、塩分の多い食事はカルシウム不足につながります。ともに膝の痛みの原因になるため、膝痛予防には避けたほうがよいでしょう。

次のような栄養素を含む食材は、適切な量を食事で摂取すると膝の痛みを予防できるとされています。日頃の食事の参考にしてください。

  • カルシウム:骨の主要な構成成分で、めざしや牛乳、海藻などに含まれるが、大量に摂取すると甲状腺の機能低下を招くため注意が必要。
  • ビタミンD:カルシウムの吸収を助ける栄養素で、摂取すると骨を丈夫にする働きが期待できる。魚類やきのこなどから摂取できるが、取りすぎると体調不良を起こす恐れがある。
  • ビタミンK:カルシウムの骨への取り込みを助ける栄養素で、ブロッコリーやキャベツ、納豆、鶏もも肉から摂取できる。
  • タンパク質:骨や筋肉を構成する栄養素で、鶏むね肉やささみ、豆腐、納豆などから摂取できる。

高齢者の膝の痛みに関するよくある疑問

膝の痛みに耐えきれず、噂や通説に頼りたくなることもあるでしょう。膝の痛みの原因や程度は人によって異なるため、どの方法が適切なのかはわかりづらいかもしれません。

ここでは、高齢者の膝の痛みに関するよくある疑問について紹介します。

膝の痛みは温めた方が良い?

体の関節や筋肉に痛みが出たとき、温めたほうがよいのか冷やしたほうがよいのかは、痛みの原因によって異なります。

どこかのぶつけたりひねったりして起こる急性期の痛みには、冷やすことが有効です。多くの場合内出血を起こしているため、温めると血行が促進され、内出血を助長させてしまいます。

一方、変形膝関節症のような慢性的な痛みの場合は、温めたほうがよいでしょう。痛みの原因は血行不良であり、血行不良を悪化させないことが重要です。冷やさないよう注意し、お風呂などでもしっかり温める必要があります。

膝の痛みを取るには?

変形膝関節症による膝の痛みがひどいときは、薬物療法が効果的とされています。用いられる薬剤は、アセトアミノフェンやNSAIDsといった鎮痛内服薬や、鎮痛のための成分が含まれているシップ薬などの貼り薬でしょう。

NSAIDsとはステロイドを使用していない鎮痛薬の総称で、一般に知られている商品名「ロキソニン」や「バファリン」などが該当します。正しい薬物療法には、医師の診断・処方が必要です。

膝の動きが良くなる運動はある?

痛みの原因が変形性膝関節症なら、膝周りの筋肉の血行を促進しつつ、少しずつゆっくり動かすのが効果的です。

たとえばお風呂でお湯につかり、温まった状態でゆっくりと膝を曲げたり伸ばしたりして動かすと、動かしやすくなる可能性があります。バランスがとりづらいときは湯船の縁につかまるなどして、無理のない範囲で動かすことが大切です。

高齢者の膝の痛みは放置せず対処しよう

高齢になると、慢性的な膝の痛みを感じる人が増えます。これは膝関節への負担や外傷、筋力・柔軟性の低下などによって軟骨がすり減り、骨を傷つけるのが原因です。しかし膝の痛みには対処法があります。運動やストレッチ、靴・サポーターの使用などで痛みを和らげられるかもしれません。

痛みが強い場合は病院を受診し、適切な治療が必要です。薬剤を使ったり、運動やストレッチをしたりすることで改善できるでしょう。

重要なのは、「高齢だから仕方ない」「これぐらい耐えられる」などと痛みを放置しないことです。早めに受診し、医師の診断を仰いてください。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝

2011年 4月 入社 事業推進部 配属 
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長
2023年 10月 常務取締役 兼 事業本部長 兼 事業推進部 部長