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お役立ちコラム
2024年10月1日
認知症ケア技法「ユマニチュード」とは?基本や介護現場でのステップを紹介
認知症ケアにおいて「ユマニチュード」という技法が注目されています。ユマニチュードは、フランスで生まれたケア方法です。認知症の方々に対するアプローチとして効果が期待されています。
本記事では、ユマニチュードの基本的な考え方や具体的な実践方法のほか、ユマニチュードが認知症ケアにどのような効果をもたらすのかについて、解説します。
目次
ユマニチュードとは
ユマニチュードは、1979年にフランスの体育学専門家であるイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティによって開発されたケア技法です。この技法は「知覚・感情・言語」による包括的なコミュニケーションを基盤としており、「人とは何か」を問う哲学とそれに基づく実践技術が融合しています。
看護や介護現場で「うまくいくケアといかないケアの違い」を観察し、丁寧に考案されたものです。ユマニチュード自体はケアが必要なすべての人々に対して適用できる汎用性の高い技法ですが、認知症ケアにも高い効果を発揮するとされており、日本では2014年ごろから普及が始まりました。ここでは、ユマニチュードの考え方や確立された背景などを解説します。
ユマニチュードの考え方
ユマニチュードは、「あなたを大切に思っている」というメッセージを相手に伝えることを重視する介護技法です。
ユマニチュードでは、相手に思いを伝えることで、相手が自分は尊重されていると感じ、ケアを受け入れやすくなるとされています。さまざまなアプローチを通じて「あなたが大切」と伝え続けることで、互いの信頼関係を構築していきますが、この信頼関係を築くための具体的な技術がユマニチュードです。
また、ユマニチュードでは「代わりにやってあげる介護」をよしとはしていません。できることを代わりにしてしまうことで、その人の能力を奪うと考えるためです。たとえば、自力で歩ける人に対して転ぶと危険だからといって常に車椅子に乗せてしまうと、その人が自力で歩いたり動いたりして移動する機会を奪ってしまうことにつながるでしょう。
ケアされる側の尊厳を保つためにできるサポートをするのが、ユマニチュードの基本的な考え方です。
ユマニチュードが確立された背景
ユマニチュードが確立された背景には、開発した2人が、介護者が認知症の方の行動すべてを支援している光景を目の当たりにし、人間らしさが失われていくことに恐怖を覚えたことがあります。つまり、人間らしさを尊重し続けるには、その人が持つ能力や健康を向上・維持できるケアが必要だと考えたのです。
認知症になったとしても、すべての機能が失われたわけではありません。そのため、自分でできることを進んでやってもらうことが、その人の能力を維持しつつ奪わないうえで重要だといえます。こうして失敗を重ねながらも、ユマニチュードのケア技法を生み出していったのです。
ユマニチュードの効果
ユマニチュードは、ケアを受ける側とする側の双方に多くの効果をもたらします。それぞれの受ける効果を見ていきましょう。
ケアを受ける側の効果
ケアを受ける人に期待できる効果としては、次のようなことが挙げられます。
- 精神状態が落ち着く
- 攻撃的な症状が治まる
- 認知症の症状の改善
- 身体機能の維持
まず、精神状態が安定しやすくなります。ユマニチュードは心に寄り添うケアを基本としているため、不安や恐怖が和らぎ、安心や信頼といったポジティブな感情を抱きやすくなるほか、攻撃的な症状が治まりやすくなることも特徴です。
さらに、認知症の方が自分でできることは自分で行うよう促すため、認知症の症状自体の改善や身体機能の維持も期待できます。
ケアをする側の効果
ケアをする側に期待できる効果としては、ユマニチュードを行うことで精神的な負担を減らせます。
介護はそもそも相手のために行うものですが、思うように作業ができなかったり進まなかったりすることもあるでしょう。そのような場合、どうしてもイライラしたり、無理矢理ケアをして自己嫌悪に陥ったりすることもあります。
しかし、ユマニチュードでは本人が嫌がるケアをしないため、強引なケアはできません。介護者として「これをしないと」という固定概念から解き放たれるため、介護に対して精神的負担や罪悪感を覚えることも少なくなります。
ユマニチュードの3つの目標
ユマニチュードの介護においては、介護を受ける人の状態に合わせて次の3段階のケアを行うことを目標としています。
- 目標1.回復
- 目標2.機能の維持
- 目標3.寄り添い
それぞれの目標について詳しく解説します。
目標1.回復
ユマニチュードの最初の目標は「回復」です。ケアを行う際には、ただ単に介助するだけでなく、利用者の心身の回復を目指すことが求められます。そのため、できる限り利用者が自分でできることを促し、回復を阻害しないよう心掛けましょう。
たとえば、「歩く」ことを目標とする場合、寝たきりにならないように立位時間を増やす工夫が必要です。具体的には、立った状態で体を拭くなどの活動を取り入れます。
また、完全にサポートするのではなく、できる部分は利用者自身に行ってもらうようにすることも大切です。このように、ケアされる方の回復を目指して、並走しながら一緒に進んでいきましょう。
目標2.機能の維持
続いての目標は、今ある機能を少しでも「維持する」ことです。これは、介護者ができるかできないかを判断するのではなく、本人がどれだけ自分の力でできるかを優先するケアを目指します。
たとえば、少しだけでも歩くことが可能なのであれば、目的の場所までは無理だとしても、途中まで付き添って歩行を支援することが大切です。また、車椅子を使う時間を減らして、自分の手で食事をすることを促すなど、本人の健康状態と機能のレベルを見極めたサポートが求められます。
目標3.寄り添い
ユマニチュードの最終目標は「寄り添い」です。回復や機能の維持がたとえ難しい状況でも、本人の尊厳を大切にしてその人らしく最期まで過ごせることを目指します。
たとえば、がんの終末期にある方のケアでは、自分で着替えができるようであれば一緒に行いましょう。「時間だから着替えてね」といった強制的な言動は避けてください。
寄り添いのケアでは、最期の瞬間まで尊厳を守ることを重視します。強制的なケアではなく、患者さん自身の意志や感情を尊重することで、その人らしさを尊重し続けることが重要です。
ユマニチュードの4つの柱
ユマニチュードでは、介護を提供する側の心構えとして柱となる、次の4つのケア技術を提唱しています。
- 柱1.見る
- 柱2.話す
- 柱3.触れる
- 柱4.立つ
この4つの柱を通して、相手へ「大切に思っている」という気持ちを伝えていくのが、ユマニチュードです。ここでは、4つの柱について詳しく解説します。
柱1.見る
高齢者や認知症の人は視野が狭くなりがちです。そのため、「見る」では視線を合わせることでポジティブなメッセージを伝えます。基本的な方法は、次のとおりです。
- 高さ:水平
- 距離:近く
- 時間:長い時間相手を見る
まず、同じ目線で見ることで、相手に対して平等な存在として見ているというメッセージを伝えられます。次に、近くから見ることで、やさしさや親密さを伝えることが可能です。さらに、正面から見ることで、正直さや信頼感を伝えます。
また、長時間見つめることで、友情や愛情を示すことも可能です。
具体的なポイントとしては、遠くから相手の視野に入り、ゆっくり近づいてから話しかけることが推奨されます。また、相手の視界に入るように自分の位置を調整することも大切です。
逆に、相手にネガティブなメッセージを伝えないように注意しましょう。たとえば、横から話しかけたり、頭上から話しかけたりすることは避けてください。
柱2.話す
ユマニチュードの「話す」技法では、声のトーンや言葉遣いに注意を払うことが重要です。声のトーンはやさしく、歌うように穏やかに話しかけることを心掛けます。言葉選びも大切で、「しないでください」ではなく「協力してくれてありがとうございます」といった前向きな表現を使うとよいでしょう。
もし、ケア相手が話せない場合には、「オート(自己)フィードバック」という技法が有効です。自分が行っているケアの内容を「実況中継」するように話す方法のことで、「今、右手を拭きますね」などと語りかけることで、相手に安心感を与えられます。
また、「何を話していいかわからない」「話しても反応がない」からといって話しかけないのはNGです。たとえ反応がなくても、話しかけるようにしましょう。
柱3.触れる
ユマニチュードの「触れる」技法は、介護を受ける方に安心感を与えるために重要な要素です。基本的には、赤ちゃんに触れるときのように手のひらでやさしく、広い面でしっかりと触れることを心掛けましょう。
やってはいけないこととしては、つかんだり、つねったりすることがあります。とくに、顔や手、唇などの敏感な部位に急に触れると、大脳に瞬時に情報が伝わり、驚きや恐怖を感じさせてしまうことがあるため注意しましょう。
触れる際は、まず感度の低い背中や上腕などの部位からやさしく触れていき、相手に安心感を与えてから、徐々に信頼関係を築くことが重要です。
柱4.立つ
ユマニチュードでは、ケアを必要とする高齢者に1日20分の立つ時間・機会を作ることを推奨しています。この20分間は一度に確保する必要はなく、1日のトータルで達成すれば問題ありません。
立つことは、次のようにさまざまな組織や器官によい影響を及ぼします。
- 骨や関節:過重がかかることで骨粗しょう症防止に役立つ
- 骨格:立位のために必要な筋肉を使うことで筋力の低下につながる
- 循環器系:血液の循環状態を改善する
- 呼吸器系:肺の容積を増やせる
ただし、不安定な状態で立つと転倒の危険があるため、主治医やリハビリ療法士などの専門家に相談したうえで計画を立てるようにしましょう。
ユマニチュードケアを実践する5ステップ
ユマニチュードケアを効果的に実践するためには、次の5つのステップが重要です。これらのステップを順番に行うことで、認知症の方とのコミュニケーションが円滑になり、信頼関係を築けます。
ステップ1.出会いの準備
「出会いの準備」とは、ケアを始める前に自分が来訪したことを相手に知らせ、これからケアが始まることを予告するステップです。具体的には、次の手順を踏みます。
まず、入室にあたってドアを3回ノックして3秒待ちましょう。そして再度3回ノックし、また3秒待ちます。最後に1回ノックしてから「入りますよ」と声をかけて部屋に入室してください。部屋に入ったら、さらにベッドボードをノックしましょう。
認知症の方は、物事の判断や理解に時間がかかることがあります。そのため、ノックしたあとに待つことが重要です。何度か繰り返してこちらの存在に気づいてもらうことで、安心感を与え、次のステップのケアにスムーズに移行できるようになります。
この一連の手順を丁寧に行うことで、認知症の方が混乱せずに安心してケアを受けられる環境を作れます。
ステップ2.ケアの準備
ユマニチュードでは、ケアを始める前に準備の時間を設けることが大切です。
ケアの前に、まずは「会えてうれしい」という気持ちを相手に伝えましょう。この気持ちを伝える際には、ユマニチュードの柱である「見る」「話す」「触れる」を活用します。
次に、20秒〜3分程度の時間をかけて、これから行うケアについての合意を得ます。この段階で重要なのは、相手の意志を尊重し、無理強いをしないことです。もし合意が得られなければ、そのケアは行わないようにしましょう。合意が得られないケアは、たとえ必要なケアだとしても「強制」となり、相手との信頼関係を損なう恐れがあります。
ステップ3.知覚の連結
ケアの合意が得られたら、次のステップとして「知覚の連結」に移ります。このステップのポイントは2つです。
まず、「見る」「話す」「触れる」のうち常に2つの行為を同時に行うようにしましょう。それにより、相手に「あなたを大切に思っている」というメッセージを確実に伝えることが可能です。たとえば、相手の目を見ながらやさしく話しかけたり、説明しながら背中をなでたりするなどの行為が当てはまります。
次に、相手の五感に与える情報は常に同じ意味になるように伝えることです。たとえば、笑顔を見せながらきつい口調で話すと、相手に矛盾したメッセージが伝わり、混乱を招く恐れがあります。
2つの行為とその行為から発せられるメッセージが矛盾しないように気をつけることが大切です。
ステップ4.感情の固定
ケアが終わったら、ユマニチュードでは「感情の固定」を行います。これは、ケアを受けた方がその体験を前向きに記憶し、次のケアに対する不安や抵抗感を減らすことが目的です。
具体的には、ケアの内容を前向きに確認します。たとえば「シャワーに入れて、体がスッキリして気持ちよかったですね」と声をかけることで、相手にその瞬間を再認識させられます。
また、相手を前向きに評価することも大切です。「シャワーをして、より素敵になられましたね」といった言葉で、相手の自尊心を高めましょう。
さらに、一緒に過ごした時間に対してポジティブな評価をすることも重要です。「私も、とてもうれしかったです」と伝えることで、相手に「私に嫌なことをしない人だ」という安心感を与えられます。
このように、前向きな言葉のやり取りを通して、ケアを受けた方がポジティブな感情を持つように働きかけていきましょう。
ステップ5.再開の約束
ユマニチュードのケアを終える際には、「再開の約束」をすることが重要です。認知症の方は、認知機能の衰えによりすぐに出来事を忘れてしまうことがありますが、「また来てくれるんだ」という楽しい感覚を感情記憶として残すようにしましょう。
具体的には、次回の訪問やケアの予定を口頭で伝えたり、メモに書いて目立つ場所に置いておいたりすると効果的です。メモを目にするたびに約束を思い出し、次の訪問を楽しみに待てるようになります。
再開の約束をすることで、次回のケアがよりスムーズに進むだけでなく、ケアを受ける方の安心感や信頼感も高まるでしょう。
ユマニチュードを実践するうえでの注意点
ユマニチュードを実践する際には、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。以下の2つの注意点を心に留めて、ユマニチュードを効果的に実践しましょう。
時間を確保する
ユマニチュードを実践する際には、時間を確保することが重要です。ユマニチュードは、利用者さん本位のケアを提供し、機能回復や残存機能の活用を目指すものであるため、介護者が焦りを見せずに、利用者さんのペースを尊重しながらケアを行うことが求められます。
しかし、人手不足などの理由で、余裕のあるケアが難しい状況の介護現場もあるでしょう。時間的余裕がないと、利用者さんに自力で行動してもらうことが難しくなり、結果としてケアの質が低下する恐れがあります。
介護する側がストレスを感じず、利用者さんのペースに合わせてケアを提供できるよう、スケジュールや人員配置に工夫を凝らすようにしましょう。
強制はしない
ユマニチュードを実践するうえで大切なポイントは、強制しないことです。ケアを受ける人が嫌がったり拒否したりする場合、無理に進めることは避けましょう。
合意のないままケアを行うと「強制のケア」となり、次のケアにも悪影響を及ぼす恐れがあります。嫌がる場合は、一旦ケアを諦め、また別のタイミングで試みる姿勢が大切です。
それにより、相手との信頼関係を築いたうえで、よりよいケアを提供できるようになります。
ユマニチュードを実践できる環境を整えよう
ユマニチュードは、認知症ケアにおいて重要な技法であり、その効果はケアを受ける側だけでなく、ケアをする側にも大きな利点があります。ユマニチュードの基本理念や実践するためのステップ、さらに注意点を理解することで、よりよいケアを実現できるでしょう。
とくに「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの柱を意識し、時間を確保し強制しない姿勢が重要です。ユマニチュードを実践できる環境を整え、認知症ケアの質を向上させましょう。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝
2011年 4月 入社 事業推進部 配属
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長
2023年 10月 常務取締役 兼 事業本部長 兼 事業推進部 部長